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しらとりごう
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novelistID. 21379
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ブローディア春

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「今日一日ずっとキ……キスしてたのに」
「ミカンとかよ」

 木野はすんなりキスと言えない。可愛いよな。その意味でもさっきは密かにビックリしてたんだけどさ。

「石間気づかねえんだもん」
「そりゃあ……ミカンじゃな」

 暗くなったからいいかな、と言って、木野がよっこらせと立ち上がる。膝からミカンの皮がボロボロ落ちた。
 俺はぽかんとしてたんだけど、慌てて立ち上がって木野の両肩を掴んだ。

「木野」
「なんだ」
「返せよ」
「返す? なにを?」

 あーっもうそのなんも考えてない顔がムカつく!
 一日中エロい妄想してたはずのくせにわかってないのがムカつく! いや、もうカワイイのがムカつく! 何気にカッケーのも!

「んっ」
「んっ?」

 立ったままで、意外と衝撃があった。ビビった木野が本棚にぶつかってよろけそうになるから、軌道修正しつつ布団の上に倒れた。倒した。とも言う。
 口も体もぶつかって押さえつけて、木野は苦しそうにもがいた。でも俺の下で呻いてるのが気分良くもあ……イヤイヤないない。

「悪い、木野大丈夫?」
「大丈夫じゃねえよ」

 顔を離すと木野は真っ赤になっていて、隙間から腕を引っ張り出して顔を覆っていた。
 少し震えてるようにも見えて焦る。

「ゴメン」
「思ってないくせに」
「思ってるって」
「でも避けないじゃん……」

 そうは言っても、木野こそ足で俺の下半身を掴んでるじゃんか。って言ったら絶交されるよな。
 木野の顔が見たい。腕を掴んだら、自分から顔を出してくれた。相変わらず赤くて、眉毛がハの字になっちゃって。

「怖かった?」
「怖くないよ」
「じゃぁ感想は?」

 木野は俺の頬をグッと押した。

「言うわけないだろ!」
「俺は幸せ」
「えっ」
「俺の感想」

 やっと木野は笑った。ホッとして体を横に倒して、布団の上に並ぶ。毛布を引っ張り上げたいんだけどなー。木野の足……離れない……

「木野は感想教えてくんないの」
「ううん」

 やっと肩にかかった毛布に、木野は頭をつっこんでしまった。俺も潜る。そしたら、中に紛れたミカンの皮を弄ってんのが見えた。

「トイレ行きたい」
「あ?」

 どっちのトイレ?
 俺は慌てて身を引いた。毛布から頭を出して、木野の頭も露出させる。

「今日トイレ近くてやだな」
「神社、寒かったからじゃん。別に普通」

 そうかなあと言って木野は部屋を出た。

 俺は何となく気づいてるんだ。あいつ、何となーく、酒くさいっぽいような……
 ミカンの匂いでよくわかんなくなってるけど、それならあの言動も分かるし。わかんねえけど分かるし。

「そうだった」
「なに」

 もどってきた木野が、ドアを開けたまま言った。

「さっきはぐらかされたから」
「そうか? ゴメン、俺なにかスルーしてた?」

 木野は顔だけ横を向いて静かにドアを閉めた。手に持ってきたペットボトルを机に置いてから、俺の上に座る。

「あのさ」
「どこ座ってんの。ダメだよそういうの」
「ん? 石間だってクラスでよくやるじゃん」
「あれ遊んでるだけ」
「俺も今現在、石間と遊んでる」

 木野がイラついている。新鮮だなとも思ってらんないっつうの。
 一瞬で脳内をめちゃめちゃな量の思考が飛び交ったはずなのに、木野が迫ってくるから全部忘れたし。

「ぜったい動くなよ、石間」
「え……うん」

 やばいだろこれ。

「石間、少し口開けろよ」
「え」

 えええーー

作品名:ブローディア春 作家名:しらとりごう