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しらとりごう
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novelistID. 21379
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ブローディア春

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今年もミカン(石間視点)



 今年はミカンは箱で買ってくれって頼んだら、兄貴に笑われた。オモチャねだってるガキみたいだって。
 そんなに必死だったかよ…

「それで指が黄色いのか」
「手ェ洗ってくるの忘れた」

 階段を上がり部屋に入って、木野は俺の手から丁寧に手袋を外した。冷たくなってるから揉み込まれてもイマイチ感覚がない。
 それって勿体ないよなあ。

「石間は大きいのが好き?」
「べつに小さくても笑わないけど」
「俺んちはみんな小さいのが好きなんだ。甘さが凝縮されてる感じがして。可愛いし」
「あ、うん、まあそうかも」

 今日はボーダーのTシャツ。ちょっと厚手の。
 木野はなにか参考にしてる雑誌とかあんのかな。自分で選んでるとは言うけど、ファッション談義を三好と二人でしているなんて図が、思い浮かばねえ。
 襟元のガードが堅いからいいとするか。

「もしかしてミカンは飽きた? 何か途中でお菓子買ってくればよかったな」
「だからさあ。」

 で、足首には密かにブレスレットつけてんの。

「ん?」
「小さくても好きなんだってば」

 モヤモヤして抱きついたら木野が足を蹴ってきた。自分のはべつに小さくないってさ。

「木野かわいいな」
「バカにしてんのかよ」
「してないし。ただ思っただけ」
「そうか」

 いつも通り木野の布団を座布団にして、寒いから膝には毛布を掛けた。その上でミカンを食べる。汚いけど、正月だから何でもありだって言うし、とりあえず普段より拳ひとつ分寄ってみた。なにも言われなかった。

「木野食べるのゆっくり過ぎない?」
「そうかな。白いのは取ってないよ」
「俺はそれ取らなきゃ無理」
「そう言う人が多いよな」

 でもペースが遅い。木野は一気に何個も食べ続けるはずなんだけど。あんま腹減ってないのか?

「半分もらうか?」
「駄目」
「はあ?」
「味わってんの」

 変だ。
 木野がグルメになっている……
 無言でミカンを食べ続ける。気まずくは、ないかな。正月休み特有のノロノロした時間と木野の隣ってのが心地よくて、そんな感じでもう日が傾いてきた。

「まだ3時過ぎなのに」
「暗くなんの早いよな」

 木野も時間について考えていたらしいことが嬉しい。ナニゲに通じあっちゃってるっぽい。やばいな。良いな。

「……」
「ヤベーわ」
「うん。まずい」
「は?」

 ちょっとずれた相づちが木野の口から漏れた。

「暗いなんて……なあ」
「はあ」

 よくわからないが、トロいなりに結構なミカンを消費していた木野は、そのミカンを手に持ったまま俺とは反対方向に体を倒した。

「どうしよう」
「どうしたんだ、木野」

 っていうか。ケツが無防備にこっちを向いているのがすごく困るんだけど。
 仕方ないから俺にかかっていた毛布を木野の下半身に押し付けて、正面に座り直した。
 木野は、まるで夢見るお姫様みたいなポーズで横になっている。カワイイ。行動は謎のまだけど。

「木野、寝るの?」
「起きてるよ。石間がいるのに」

 ウッ。不意打ちで……きました。

「じゃあミカンよこして目開けて」
「やだな。」

 はあ。
 俺は木野の髪に指を差し入れた。指先が冷たかったのか、木野がブルッと震える。

「石間」
「なに」
「ミカンってさ」
「うん」

「クスクスクス。どうしよう」
「だからどうしたんだっつうの」

 木野がパチリと目を開く。上目遣いで笑ってる。
 今日のこいつはちょっと甘い感じがするんだよなあ。空気がさ。

「ミカン、キスみたい」
「へえ~

 エ?」

 木野はまた笑いだした。
 よく見ると、指でつまんだミカンを、く、唇に挟んでやがる……なんだよそりゃあ。


作品名:ブローディア春 作家名:しらとりごう