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しらとりごう
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novelistID. 21379
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ブローディア春

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 今何時だろう……。




「木野、まだか?」
「もう少し」

 木野はあのあと俺を押し倒して何をしたかと言うと、本番だった。本番とかいうな馬鹿。

「ミカン楽しかったんだけどさ」
「んん」
「冷たいし」
「んー」

 下唇に飽きたのか、上唇がくわえられた。ただ、木野の唇に挟まれてるだけだけど。
 動かしたら怒られたからとりあえず大人しくしておく。でもフニフニされてさ、なんかズルくね?

「なんか、似てるなって思ったんだよ」
「ふーん」
「でも石間の口なんかくわえた事ないじゃん」
「そうだっけな」

「やっぱり石間のがいいな」
「……はあ」

 もういいかなー……
 あのさー、聞いてらんねえよこういう会話をさあ……

「木野、ふやけるから」
「もう駄目?」
「うん」
「やだよ。……わっ?」

 俺は木野の唇に改めてキスをした。というか今日……今年はじめてのキスだ。さっきまでのは俺的にキスじゃねえ。と言い張る。

「石間」

 木野は上機嫌で俺にしがみついてくる。あったけー。やっぱり呑んでる……まさか御神酒とか?
 腰に手をまわして体勢を入れ替えたら、それまで笑顔だった木野の顔がきょとんとして、髪を撫でたら無になった。
 思わず頭にキスをしていた。

「石間」
「なに」
「なんかすんの」
「なんかして欲しいの?」

 ムッとして、木野はそっぽむいた。俺が聞いてるのにって感じで。あーもう可愛いし!
 きつく抱きしめたら、シャツが捲り上がった。
 ウソ、勘違いじゃなければ素肌だ、これ。

「石間、俺どうしたらいいかわからない」
「(俺だって……)」

 見れば木野は信じらんねえくらいにピンクな頬で俺を見上げてるじゃんか。据え膳てなに。なんでしょうか。
 水っぽいキスになった。
 問題は素肌から手が動かせないことだ。進めるのも怖いし剥がせもしない。木野は布団にただ寝かせていた腕をゆっくり俺の体にまわして、肩とベルトを掴んでいた。

「木野」
「うん」
「あのさ」
「あ。」

 ちょっとだけ押し付けてみる。乗っかってるからもう気づいていたかもしれないけど。
 木野は震えた。感じたのか嫌だったのか……嫌ってことはないよな。木野も……だった。


 晩飯をご馳走になることになった。
 正月なのになあ……母さんにお土産を持たされてなかったら、流石の俺も遠慮してたかも。

「木野んちのソバつゆって甘いよな」
「昨日の残りではずかしいよ」

 お笑い番組を見て、木野の部屋に戻る。

「8時には帰るよ」
「もうすぐだな」

 木野がしょんぼりしてる。立っていると顔が見えないんだけど、分かる。
 帰りたくねえな。

「さっきからドキドキしてたんだけど」
「うん?」

 木野はドキドキとか言いながら、蛍光灯の下で大胆にTシャツを脱ぎだした。
 苦笑いの木野は、それを手に持って掲げる。

「後ろ前だったんだよ」
「エ!」
「アハハ」
「マジで……」

「なんか動きにくいと思ったんだよな」
「うっそ……」

 着直した胸にはロゴが。これが背中にあったわけか。

「ばれてたと思う?」
「どうだろう」

 木野はヘへっと笑って俺にくっついた。流石に酔いは醒めたらしいけど、あいかわらずの流れで今日は甘いなぁ。

「今度はちゃんと着せろよ」
「はあ? 腕を通したのは木野じゃ……」

 ん?

「いま、今度はちゃんと着せろよって言った?」

 木野は返事をしなかった。でもくっついたままで顔を俺の脇に突っ込んで笑っている。
 まじですか。
 明日は江差たちと映画って言ってたけど、予定変更したい。かも。

「石間?」
「今度はちゃんと着せるよ」

 帰る前にもう一度キスをした。
 今年は……かなり良い年になるかもしれない。
 期待しとこう。


(おわり)
作品名:ブローディア春 作家名:しらとりごう