ブローディア春
『石間と木野は幼馴染』説が浮上したから、その成り行きで一緒に帰ることになった。
なぜ今まで仲良くなかったのかというと、久々にあったらタイプが違っていたから……というのがみんなの想像なのだと思う。伝説の友情物語が、クラスのみんなの頭のなかを駆け巡っている。
つまり俺と石間はタイプが違う……お似合いじゃないってことかな。お似合いって何だよって感じだけど。
「なんかすげえ事になってきたな」
「悪い」
「なんであやまんの」
「だって石間と学校で関わらないようにしてたのに」
「関わらないようにしてたの」
俺を後ろに立たせて自転車をこいでいた石間が急ブレーキをかけた。俺はつんのめった上、足を踏み外して落ちた。
「痛ー!」
むっとしたのと驚いたのの半々の気持ちで石間を見たら、もっとむっとした顔で自転車をこいでいってしまった。なんだよそれ!
せっかく自転車の後ろに乗れるようになったのに、これはトラウマになるぞ!
納得がいかないまま歩いて家に帰ると、石間はすでに俺の部屋でくつろいでいた。母さんは石間の大ファンだから、石間が好きだといったケーキのようなおやつを買い込んでいて、石間がかわいいといったバラ柄の白い皿に載せることになっている。今日もそのとおりだ。
「ただいま」
「………。」
「ただいま!」
「おかえり」
石間の無表情が崩れたからほっとして隣に座った。
今日は布団をたたんでから学校に行ったはずだけど、石間によってそれは引き伸ばされていた。座布団の代わりだから。
「木野って俺のこと学校で避けてたのか」
「なるべくな」
「なんでだよ」
「好きだからだ」
石間は眉間にしわを寄せた。
「悪気はないよ。好きなのだって悪気はないよ。でもだめだっていわれたら堪んないだろ。だからしょうがないじゃんか」
「えーと……、今日だってさ、なんか凄いことになっちゃったし。困るだろああいうの」
「まだだめ? ……えーとえーと、もうほんとに理由なんてないよ……石間だってそうじゃないのかよ……石間がそうやって怒ったって俺は好きなまんまだからな」
「木野」
「なんだよ……俺もうどうしようもないよ」
石間は俺の名前を呼んだ。布団に座って俺の隣にいるせいで、顔を見合わせたら実は結構至近距離だった。
「木野、今日どうしたんだ」
「ど……え? どうって。だって石間が落とすからだろ」
石間がにやけたような怒ったような顔で顔をそらした。
髪の毛をくりくりと捻っていて、そんなふうに俺の髪もねじっていたのかと現実逃避をして、次の言い訳から逃げたいなとか思う。
「いまさらかよ。落ちたのかよ」
「今更? 石間のせいだろ。もう俺石間のには乗らないからな!!」
「のる……」
「だって痛いんだぞ!」
「痛い……のか……」
「何とかいえよ!!!」
石間は蹲ってしまった。心配になって覗き込んだらぎゅうっと抱きつかれて
「心臓に悪いこと言うなボケ!!」
と笑われてしまった。もう怒っていないらしい。
ボケって、初めて言われた。
(おわり)