ドーナツが世界にあふれる朝
土曜日の朝。
カーテンを通る柔らかい光が部屋の壁からすっかり床に降りてしまうまで、ベッドの中でわたしはとろとろと微睡みを楽しんでいた。
そんな時間を、慌ただしく一週間を過ごした自分へのご褒美だと、わたしは思っている。
いつもの事だが、夫は既に起きているようだ。開け放たれたドアーからパーコレーターのコポコポいう音がかすかに聞こえて来る。つづいてコーヒーの豊かな香りが流れて来た。
カッコーだ。
子供の頃から休日の朝に目覚める時、わたしの頭の中では『静かな湖畔』の輪唱が流れ出すのだ。もちろん気分がいいときだけに限るけれど。
パジャマのままリビングに行くと夫のタカユキさんはソファーに座って新聞の社会面を読んでいた。
リビングの明るさが眩しい。ラジオからは『イパネマの娘』のボサノヴァのリズムが低い音量で流れていた。
タカユキさんもまだ起きばかりなのだろう。新聞を後ろから読むのが彼の癖なのだ。
「おはよう。コーヒーもらってもいいかしら」とわたしが言うと。
「もちろん」タカユキさんはにんまりと笑った。いつもの事だ。
わたしは大きめのカップにコーヒーを注いで一口飲んだ。
そしてパーコレーターを載せたヒーターのスイッチを切る。温め続けたコーヒーほど不味い物は無い。
「ドーナッツでいい? 昨日買ってきたものだけど」と言いながらわたしはノスタルジックな絵が描いてある箱を開けた。先週の土曜日がクリームパンだったので今日はドーナッツの日なのだ。
思ったとおり彼は、ああ、と応えたけれど、わたしはそれより前にドーナッツを箱から出して皿に移していた。
カーテンを通る柔らかい光が部屋の壁からすっかり床に降りてしまうまで、ベッドの中でわたしはとろとろと微睡みを楽しんでいた。
そんな時間を、慌ただしく一週間を過ごした自分へのご褒美だと、わたしは思っている。
いつもの事だが、夫は既に起きているようだ。開け放たれたドアーからパーコレーターのコポコポいう音がかすかに聞こえて来る。つづいてコーヒーの豊かな香りが流れて来た。
カッコーだ。
子供の頃から休日の朝に目覚める時、わたしの頭の中では『静かな湖畔』の輪唱が流れ出すのだ。もちろん気分がいいときだけに限るけれど。
パジャマのままリビングに行くと夫のタカユキさんはソファーに座って新聞の社会面を読んでいた。
リビングの明るさが眩しい。ラジオからは『イパネマの娘』のボサノヴァのリズムが低い音量で流れていた。
タカユキさんもまだ起きばかりなのだろう。新聞を後ろから読むのが彼の癖なのだ。
「おはよう。コーヒーもらってもいいかしら」とわたしが言うと。
「もちろん」タカユキさんはにんまりと笑った。いつもの事だ。
わたしは大きめのカップにコーヒーを注いで一口飲んだ。
そしてパーコレーターを載せたヒーターのスイッチを切る。温め続けたコーヒーほど不味い物は無い。
「ドーナッツでいい? 昨日買ってきたものだけど」と言いながらわたしはノスタルジックな絵が描いてある箱を開けた。先週の土曜日がクリームパンだったので今日はドーナッツの日なのだ。
思ったとおり彼は、ああ、と応えたけれど、わたしはそれより前にドーナッツを箱から出して皿に移していた。
作品名:ドーナツが世界にあふれる朝 作家名:郷田三郎(G3)