「姐ご」 1~3
後方に控えていたやくざ屋さんの若い衆が、
血相を変えて一斉に立ち上がりました。
・・・やくざ屋さん、煙草をふかしながら後ろを振り返ります。
若い衆たちには、これ以上はないというほどの厳しい目線を送ります。
渋々と座り直す若い衆を見届けてから・・・
「今日は、もう少し粘ってみるか・・・・
おい、瓦屋。
この先の和(より)というスナックで先に行って飲んでてくれ。
なぁに、俺のおごりだよ、
気にしないでじゃんじゃんやっててくれ。
悪いあ~若い者が気を利かせず、空気までピリピリさせちまって。
せめてもの、おとしまえだ」
気配を察した瓦屋が潮時だと読んで、
いわれた通りに退席をしました。
表に出て、「和」と言われたそのスナックの看板を探します。
どこかで聞いた覚えがあるのですが、
思い出せないままに歩いていると、ほどなく
その看板が見つかりました。
ドアを開けてみると、外見よりも広く、
小洒落た感じの落ち着いた店内です。
ソファーにいた女の子たちが一斉に笑顔で迎えてくれました。
「不良の店にしては・・・。
ごく当たり前の雰囲気だな」
いらっしゃいませの声とともに、
カウンターの奥から着物姿の若い女性が出てきました。
どこかで見た覚えがあります・・・・
「姐さん、若そうだが歳はいくつだ?」
「藪から棒に失礼な口のききかたですね、あんたって人は。
若そうに見える年齢ではなく、
実は、本当に若いのよ」
「そうだろう、
俺もそう思っていたところだ。
ところで見たような顔だ、で、どこだ会ったのは?」
女が鼻で笑ってから、懐からサングラスを取り出しました。
カウンターから身を乗り出して、瓦屋さんの目の前でそれをかざして見せます。
「元気なお兄さん、
これに見覚えは、ござんせんかぁ」
あっと、瓦屋が絶句します。
追い打ちをかけるようにして、姐さんが一気におし込みます。