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舞うが如く 第五章 16~18

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 八重の号令と共に、山門の左右から飛び出してきた鉄砲隊が
片膝をついた低い姿勢から、突進してくる敵兵たちに
それぞれ狙いを定めました。
作蔵が、力をふりしぼって立ちあがります。
両手で琴をかばいながら数歩を歩きましたが、ほどなく崩れて、
そのまま山門の壁へと倒れ込んでしまいました。


 滴り落ちる鮮血の量はおびただしく、
すでに、閉じかけようとしているその両目にも、
いつもの元気が見えません。
その顔を両手ではさみこんで、琴がまじかに顔をよせました。
作蔵の耳元に、琴が優しくささやきかけます。



 「作蔵。
 もう一度、私と立ちあう約束であろうに。
 このようなところで、力尽きていては、誠に不本意であろう。
 気を確かに持つがよい、
 いずれも、傷は浅い!」



 「なぁに・・・
 すでに充分だ。
 もう、俺も満足である。
 お前を、命がけで守れたと有るならば
 ようやくのことで、わしも男子の本懐を遂げられたということだ。
 しかし、悪いなぁ、琴・・・
 もう、これ以上はお前を守ってやれぬようだ、
 それが、わしの唯一の心残りだ。」



 壁に背中を押し付けて、這い上がるようにして作蔵が上半身を起こし、
やがて立ち上がろうとし始めました。
それに肩を貸して、手を添えている琴の耳もとへ、
作蔵が、また低くつぶやきます。



 「琴よ・・・
 良い香りが、漂ようておる。
 懐かしいのう、
 あの立会いの時と同じ、お前のあの匂いだ。
 加えて、いいおなごの良い香りまでも漂ようているようだ。
 懐かしすぎるお前の匂いだ。
 いいおなごに成長したなぁ、琴よ。
 また、お前に会えて、おれも本当に嬉しかった。
 まさかお前に抱かれて、
 最後に旅立つことができるとは・・・・
 この作蔵、
 男の冥利に尽きる。」



 必死で支え続ける琴の肩へ、
力の抜けた作蔵の頭が、のめるように崩れ落ちてきました。
あわてて抱え起こしてみたものの、琴が、何度も作蔵を揺すっても、
すでに作蔵は、なにも応えません。
口元には、かすかな頬笑みが残っています。
やがて満足顔のままの作蔵が、静かに山門へ横たわりました。