舞うが如く 第五章 13~15
舞うが如く 第五章
(15)鳴り続ける鐘
会津若松城は、堅固な名城として知られていました。
さすがの政府軍も、容易に城を攻め陥とすことができません。
城壁は高く、政府軍は城壁の銃眼を目標にしては、
しばしば小銃戦などを交えました。
また各藩の砲兵は、天守閣や鐘楼の破壊などに腐心をして、
日夜、砲弾の雨をそこへと集中をさせました。
しかし、鐘楼からは刻々として鐘が打ち鳴らされたままでした。
その鐘の音は少しの時も違えずに、若松城の内外へ、
超然として響き渡りました。
政府軍の兵士からみればこの鐘の音は、
ことのほかに癪に障る存在で、
ますます砲撃を集中させるようにもなりました。
無数の砲弾が鐘楼上に落下したために、鐘楼はついに炎上し、
わずかに、柱を残すのみとなってしまいました。
しかし城兵たちは幕を取りだすと、これを急きょ巻きつけて、あたかも
健在であるかの風をよそおってしまいます。
ここの鐘楼守は、長谷川利三郎(六石五斗二人扶持)
という、七十二歳にならんとする老人でした。
城兵らは老人の労をねぎらい、その勇を賞しましたが、当の利三郎は
「鐘楼は私の陵墓であります。
弾丸に貫かれるような事があっても、
ただ瞑するだけのことです。
私には何の不安も、思い残す事もありません。
あなた様こそ、このような危険な場所から早く立ち去り、
自分の部署をお守り下さい」
と言い放って笑い、なお矍鑠(かくしゃく)たるものがありました。
作品名:舞うが如く 第五章 13~15 作家名:落合順平