【第十一回】きみの て
「今…ってなんだ?」
京助が聞く
「制多迦様は…」
慧喜がつらそうな顔で口を開いた
「慧喜…?」
その慧喜を悠助が心配そうに見ると慧喜が悠助を抱きめて顔を上げた
「…義兄様達が知ってる制多迦様は制多迦様の半分の制多迦様なんだ…」
慧喜が言う
「半分? ハーフ?」
南が聞き返す
「制多迦様には義兄様達の知らない制多迦様がいるんだ…」
慧喜が小さく言う
「俺等の知らないタカちゃん…あなたの知らないタカちゃん?; …多重人格ってことか?」
坂田が聞く
「義兄様が知ってる制多迦様がどうして眠らなかったか…話してあげる」
窓に三月のみぞれ混じりの雨がココンと当たった
「制多迦様は自分で抑えられないくらいの力を持っているんだ…自分すら自分で消してしまう位の力を」
慧喜が話し始めた
「だから上が…力と感情を分けたんだよ…感情が抜けた部分で自分で力を使えるようにって」
「分けた…?」
京助が疑問形に聞いた
「そうだよお前達が知ってる制多迦様は感情を表にした制多迦様なんだよ」
鳥倶婆迦が答えた
「そしてその…義兄様達が知らない制多迦様は…感情が殆どない力の制多迦様…」
慧喜がキュッと唇を噛んだ
「制多迦様はもう笑わない…泣かない…そして…私達の事を見てくれないナリ…」
慧光がぐすっと鼻を拭る
「あるのは…上の命に従って自分の考えで力を使う…獣の本能を持った操り人形みたいな感情…」
慧喜が言う
「制多迦様が眠ると感情も眠るから力の制多迦様が起きてくるんだ」
鳥倶婆迦が言った
「だから制多迦様は眠らなかったんだ」
茶の間がしん…となった
「…いくら矜羯羅様でも制多迦様には…勝てない…ナリ…だから…」
慧光が俯いたまま鼻を啜りながら言う
「助けて…欲しいナリ…ッ…矜羯羅様だけでも…ッ」
ヒッヒッと泣きしゃっくり地獄に陥りながらも慧光が必死で懇願した
作品名:【第十一回】きみの て 作家名:島原あゆむ