【第十一回】きみの て
「矜羯羅様ッ!!」
走り出した矜羯羅の手を離さない制多迦、その後ろには鳥倶婆迦と慧光がついて走る
「向こうに行けば迦楼羅も乾闥婆もいる…だから…」
「…から矜羯羅がいなくてもいいっていうの?」
走りながら言った矜羯羅に制多迦が聞く
「そうだよ…僕がいなくても君を守ってくれる」
矜羯羅がそう言うと制多迦が足を止めた
ゴン
「…せ…いたかさま…?;」
追いついた慧光が目を丸くして見たのは矜羯羅に頭突きしている制多迦
「…何するのさ;」
制多迦の頬を思い切り引っ張って矜羯羅が言う
「…ょんはらほふぁふぁふぃふぁひひゃらいひふぃふぁい」
「…何言ってるのかわからないよ」
頬を引っ張られながら制多迦が言った
「…んがらの変わりはいらないしいないよ」
開放された頬を撫でながら制多迦がさっき言ったらしい言葉を繰り返した
「…くが好きなのは矜羯羅って言う矜羯羅」
ヘラリと制多迦が笑う
「…何言ってるのさ」
溜息をついた矜羯羅の服の裾を鳥倶婆迦がくいくいと引っ張った
「おいちゃんの計算ではもうすぐ指徳が…」
「私がなんだって?」
響いた声に一同がはっとして振り返ると近付いてくる足音
「制多迦様!! 矜羯羅様逃るナリッ!!」
慧光が叫んで両手を前にかざした
「ここはおいちゃんたちが…ぅわ;」
「制多迦様ッ!?;」
ふわっと鳥倶婆迦と慧光の体が浮き上がったかと思うと遠ざかるもといた場所
「…どこ行く気?」
左脇に慧光、右肩に鳥倶婆迦、そして右脇に矜羯羅を抱えた制多迦が走る
「…ぁ?」
矜羯羅の質問に制多迦がヘラリ笑いで返した
「…めんね矜羯羅」
しばらく黙ったまま走っていた制多迦がいきなり口を開いた
「…くがいたから僕が僕だったから…でも僕は僕でいたくて…だから…」
「だから?」
【だから】の後黙り込んだ制多迦に矜羯羅が声をかけた
「…めんね…ありがとう」
そう言った制多迦が矜羯羅に向けたのはヘラリ笑いではなく眉を下げたでもどことなく嬉しそうでそれでいて悲しそうな笑顔
「な…」
「制多迦様」
何か言おうとした矜羯羅の言葉より先に鳥倶婆迦が言った
「…に?」
「前」
作品名:【第十一回】きみの て 作家名:島原あゆむ