【第十一回】きみの て
「僕が泣くなんてあってはならないんだ…僕には感情はいらない…感情なんかない…」
制多迦がまるで自分を落ち着かせようとするかのように言う
「…制多迦」
竜が一歩足を進めて制多迦に声をかけた
「寄るな」
落していた棒を足で蹴り上げ手に取った制多迦がその棒を竜に向けた
「お前も…好きなんだろう? あの場所が」
もう一歩足を進めながら竜が微笑んだ
「制多迦様…」
矜羯羅を腕に抱いた慧光が鼻水を出しながら小さく言うと鳥倶婆迦が自分の袖で慧光の鼻水を拭う
「【帰って】きたいんだろう?」
「うるさいよ」
更に制多迦に近付いた竜を制多迦が睨んだ
「俺が手を貸してやるから…【帰って】こい」
竜が手を差し出すと足を一歩引いた制多迦が攻撃の構えをする
「鳥倶婆迦…慧光」
視線は制多迦(せいたか)から逸らさず竜が鳥倶婆迦を慧光に声をかけた
「もうしばらくしたらおそらく宮司に見つかる…だけどお前達は空だから大丈夫だ…俺が制多迦と扉を閉ざす…まだ【時】はきていないからな…」
竜が言う
「閉ざす…ってじゃぁお前は…」
「制多迦様を…って…」
鳥倶婆迦と慧光がそれぞれ違うことを同時に聞いた
「…俺の大事なモノを守るのもお前達の大事なモノを守るにも…こうするのが今一番いいと思うんだ」
竜が笑う
「僕を閉ざす? 無理だよ…わかるんだ竜…お前は今まだ完全じゃない」
まだ止まらない涙にもう構わず制多迦が言った
「ああ…まぁ…何とかなる…いや…しなければ駄目なんだ」
再び視線を制多迦に向けつつ竜が言う
「鳥倶婆迦…慧光…京助に一つ言っておいて欲しいんだけど」
竜が言うと鳥倶婆迦と慧光が顔を見合わせた
「…約束守れよってな」
そう言いながら床を蹴った竜が制多迦に向かっていった
作品名:【第十一回】きみの て 作家名:島原あゆむ