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『喧嘩百景』第3話日栄一賀VS緒方竜

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 「一賀、おいっ」
 倒れ込む一賀の身体を薫が抱き留める。
 何や一体、どうなっとんのや。
 竜には、薫がなぜここに現れたのか、一賀がどうして倒れたのか、さっぱり判らなかった。
 「竜っ、一賀に無茶させるんじゃないよっ」
 薫は一賀を抱えて竜を怒鳴りつけた。
 「せ…せやかて……」
 仕掛けてきたんはそっちや。おまけに痛い目におうたんは俺の方や。そいつ、ごっつ性悪やんか。
 竜としては言いたいことはたくさんあったが、薫の剣幕にたじたじとなってそれ以上は言えなかった。
 薫はちらっと竜の手首の傷に目をやって、
「いや、悪ぃ、お前だけが悪いんじゃなかった」
と首を振った。
それでもまだ納得のいかない顔をしている竜に、
「環(たまき)女史が教えてくれたんだ。あいつが、克紀が何か企んでるってな。――たく、一年坊主にいいように躍らされやがって」
 竜にはますます分からなくなった。
 克紀が?企む?――で、何で、環女史が?
 「お前もそのうち判ると思うけどさ、この辺りには妙な連中がうろうろしてんだよ。――一賀でさえこの様だ。お前ももう少し用心しろ」
 薫の台詞はまだ謎だった。佐々克紀がそんなやばい人間なのか?それともまだほかに何かあるのか?竜には想像もつかなかった。何に対して用心しろと言うのか。
 「とにかく――こいつはホントに身体が悪いんだ。もう二度と無茶させるなよ」
薫は言った。
 「すんまへん」
 しょぼんと竜は謝った。
 ――せやけど、そいつほんまにむっちゃ性悪ですやん。
 一賀に目を落とす竜の視線に気づいて薫はもう一度口を開いた。
 「こいつだけは怒らすなって言ったろ。今じゃもう滅多に悪さはしやしないよ」
 薫は一賀を抱き上げて踵(きびす)を返した。
 ――お茶会同好会メンバーに、これで零(ゼロ)勝四敗かいな。
 薫に蹴られた腹を押さえて、竜は彼の後を追った。

★          ★

 次の日の放課後、授業を休んだらしい一賀が、部室などないお茶会同好会が活動の場として利用している図書館の一室に顔を出した。
 「一賀ちゃん。どう?具合は」
 不知火羅牙(しらぬいらいが)が声を掛ける。
 「うん、大丈夫、午前中はきつかったけどね」
 一賀は普段通りの様子で窓側の席に腰をかけた。