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僕の村は釣り日和2~バルサ50

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 食事が終わって部屋に戻ろうとすると、父が僕を呼び止めた。
「ちょっとお父さんの部屋においで」
 僕はちょっと胸騒ぎがした。東海林君と父親の釣り道具をいじったのが気に障ったらどうしようかと思ったのだ
 部屋に入ると父はルアーがぎっしり詰まった、タックルボックスというケースを開けて待っていた。
 いかにも魚の形をしたルアー。ズングリムックリとしたルアー。プロペラが付いた、まるで子供のオモチャのようなルアー。釣りをしなくても、見ているだけで楽しくなるような気分になる。
「みんな綺麗だったり、おもしろい形をしたりしているね。まるでオモチャ箱だ」
「そうだよ。お父さんのオモチャ箱だよ」
 ビールの酔いのせいだろうか。父は少し赤い顔で、人懐っこい笑顔を浮かべた。
「これは全部、ブラックバスを釣るためのルアーなんだ」
「へえー……」
 僕はプロペラの付いたルアーを取り出し、電球の下にかざしてみる。それはどう見ても小魚はおろか、虫とか餌の類いには見えない。
「こんなので本当にブラックバスが釣れるの?」
「条件さえ合えばね。いつでもってわけじゃないよ。これはトップウォータープラグと言って、水面で使うルアーなんだ。プロペラの音がブラックバスの闘争本能を刺激するんだろうな」
「闘争本能?」
「イライラして噛み付くんだよ」
「ふーん」
 父がズングリムックリとしたルアーを取り出した。
「これをよく見てごらん」
 そのルアーは木で作られており、表面はニスのようなものでコーティングされているが、そこは小さな傷でザラザラだった。
「その表面の傷はブラックバスの噛み跡さ」
「これが?」
「そう。ブラックバスの歯は紙やすりみたいにザラザラなんだ」
 意外だった。獰猛な魚はみんな、もっとギザギザで鋭い歯を持っているかと思っていたからである。
「この傷はな、それだけブラックバスを釣り上げた、言わば勲章みたいなもんだ。これを秀美ちゃんの息子さんにプレゼントしようじゃないか」
 父が鼻の下をこすりながら、笑って言った。
「本当にいいの? お父さんの宝物じゃないの?」
「本当の宝物は胸の中にしまっておくものさ」
 少し照れたように、はみかみながら父が言った。でもさすが僕の父親だ。その言葉は僕の胸にズキンとしみた。
「ありがとう、お父さん。東海林君もきっと喜ぶよ」