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降誕祭

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 さて、時は過ぎていよいよ降誕祭第一日目が始まった。学院内のあちこちが飾り付けられ、皆の気分は否応なく盛り上がる。
 初日のプログラムは、月組の『少女は踊る』と幸(ユキ)組の『六花が舞う頃に』。
 この学院は音楽専門学校なのでホールが二つ存在する。一つはオーケストラ専用の大ホール、もう一つは今回使用される歌劇場。本来の歌劇場に比べればその規模は小さいものの、生徒達にとっては申し分ない立派な舞台だった。

 オーケストラボックスに隠れて姿は見えなくとも、ガリーナが奏でるティンパニは音を聞けばすぐ分かってしまう。誘い合って見に来ていたルームメイトの面々は顔を見合わせて、笑った。

 プログラムは何の問題もなく進み、それぞれが拍手喝采を浴びていた。二日目は星組の『掌中の珠』と空組の『天へ、奉らん』。
 そして待ちに待った三日目。風組、そして花組の出番である。ミュージカル自体をこの行事の演目に持ってくることは初の試みだっただけに(他の行事ではミュージカルを選ばれることが多かったが)、舞台だけでなく客席にも緊張が静かに満ちている。

 しかしながら、ドルチェの脳内には緊張という二文字は存在しないのか、ステージ袖から軽やかに登場し、朗朗と歌い上げるその姿はまさしく恋する歌姫。
 冒頭のソロが終わり、替わってオーバーチューンが流れ出す時点で、割れんばかりの拍手が起こる。
 にっこり笑って観客席に投げキッスを贈ったドルチェがステージ袖へ戻っていく。客席にいたコチアンとリーツは安堵してそっと視線を交わした。
 テンポのよい間合い、歌の合間に挟まれるセリフも見事にこなしていた。
 ソリストはもちろん、あの独特の存在感を放っていたし、コントラルトの気障な近衛隊長はソリストにも負けないくらいのオーラを振りまき、ファルサのお喋り給仕頭もアリアのおっちょこちょいな愛の天使も観客の笑いを誘った。
 どの子供達も、それぞれが持っている個性と実力を存分に出し合っていた。

 いよいよ、チエコの登場である。コチアンは隣にいるリーツの身体が軽く動くのを感じた。コチアンも例外でなく、つい手に力が入る。

 チエコは予想していた以上に落ち着いていた(元より感情がなかなか顔に出ない彼女であるが)。台詞も歌も、決してどもったり震えたりすることなく朗々と響いている。

「……よかった……」

 無意識だろう、小さく呟いたコチアン。リーツは肘掛けに載せていた彼の手を相槌の代わりに軽く叩いた。目を向ければ視線がかち合う。二人は満足そうな笑顔を浮かべた。

 その後はもう、心配はどこへやらだ。舞台を思い切り楽しみ抜くことが出来た。フィナーレとなり、ほぼ全員の観客が立ち上がり、舞台の花々達に惜しみない拍手を送った。

 ラストは千華(センカ)組の『名君』。その喰われるような貫禄は流石としか言えまい。息をのんで見つめる観衆と、鳴り止まないスタンディングオベィション。

 ――これにて全ての舞台は終わった。後は夜が更けるのを待つだけ。
 そう、今夜はクリスマス・イヴだ。

作品名:降誕祭 作家名:狂言巡