降誕祭
食堂でローストチキンやクリスマスプティングなどの晩餐を済ませてから、子供達は色とりどりの小さな燭台に乗った蝋燭を持って、ある場所に向かう。大聖堂へと。
これからイヴのミサが始まるのだ。ここからが、聖歌隊の大本番。リストはすでに準備に入っているのか、どこにも姿が見あたらない。今年のソロはもちろんソリストである。
先ほどまで満面の笑みで歌っていたドルチェ達も、今度は凛とした真面目な顔つきで祭壇脇に立っている。
今日の寮の鍵当番はリーツ達だ。施錠を確認し、長い列の最後尾を歩き出す。蝋燭に照らされる道すがら、コチアンは隣を歩いていたピンチヒッターを終えた癖毛の友人に小声で話しかけた。
「良かったよ、すごく。ちゃんと客席から見ることが出来たしね」
「もうこりごりだよ……次はない」
「ふふ、わかってるって。それにしてもさすがドキッさせられたよ、ドルチェちゃんとのキスシーン。絶対みんな騙されてたよね、あの際どい角度はさ」
チエコはううん、と少し呻くように息をのんでからコチアンを上目遣いに見た。
「……君だから、言ってしまうけど」
「え?」
「あれ、本当だから」
「へ?」
コチアンは思わず耳を疑った。
「あの子! 本番だからってホントにキスしてきたんだよ……練習中は何とか死守していたんだけど……まあ、ああいう子なんだよねえ……」
「ホントに?」
「正真正銘の真実! ……って言っても、あの子とは小さい頃からの付き合いで慣れちゃってるんだけど……途中で数えるの諦めたぐらいには」
「チエコのこと、愛してるんだ」
「ある意味あれも愛の一つかもしれないけれど、あの子場合は悪戯の延長に過ぎないだろうよ」
――袖に戻ってから、思いっきり擽ってやった。あの子、とんでもなく擽ったがりなんだよね――
そう言って頬にかかる髪を弄るチエコ。小さな灯りに照らされた女友達の、照れ臭さを隠すために憮然とした顔を作っている細面を見て、コチアンはそっと微笑んだ。
「――頑張った君達に、クリスマスの祝福を」
「うん……ありがとぉ……」
チエコの目と声は、少し潤んで湿っていた。コチアンはそっと彼女から目をそらす。
満天の星空のもと、小さな灯りを手にした少年少女達は大聖堂にすいこまれるように集まってくる。
コチアンは寒さで赤くなっているであろう鼻の頭をそっと擦り、天に目をやった。
季節の中で最も澄んで見える冬の星空は、切れそうなくらい冷たく張り詰めている。
あの星の数と同じくらいに、自分達はそれぞれの胸に希望と夢を持っている。
ビロードの中で煌めいている星達は、そんな自分達に勇気を与えてくれている気がした。じわりと、目頭に熱が集まる。
「コチアン?」
急に立ち止まった男友達にチエコが振り返る。
(僕たちも、いつかこんな輝く星のようになれるだろうか?)
「これぞ、星が降る、夜だね」
コチアンの言葉に、チエコも頷いて倣うように空を仰ぐ。
二人でほんのわずかの間見つめていた。今夜は、天使の歌が流れる夜だ。
「さあ、天使の歌声を聞きに行こうか」
「祈りと誓いと共にね」
天の星と地の星。大聖堂に集まる、輝ける星の欠片達。彼らに、どうか神のご加護とクリスマスの祝福があらんことを。
大聖堂の入り口のすぐ近くに立っている、大きなモミの木の天辺に鎮座しているベツレヘムの銀星がある。導かれるように、音楽の申し子達は集まっていった。
It is good night today! I wish you a Merry Christmas!