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舞うが如く 第五章 10~12

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 しかし戸ノ口原を一夜にして突破した政府軍は、
追撃の手をゆるめることなく、翌二十三日の早朝には早くも、
若松の町中にその姿を現れました。

 あわてた軍事局が、直ちに警鐘を乱打したために、
藩士の家族や町人などが、大挙して鶴ヶ城につめかけてしまいました。
入りきれない者たちが、数万人にもおよんだために入城をあきらめた人々が、
今度は一斉に、西方の山野をめざして避難を開始しました。
それらも混雑もくわわったために、市内では、
さらにいたる所での大混乱が発生をしました。



 市外西方にある阿賀川は、
たいへんに川幅も広く、流れも急なために橋を架ける事ができず、
普段から舟を使いて往来をしていました。
この日も連日の雨で濁流となり、水の勢いは
通常の倍以上もなって流れていました。



 川岸には多くの小舟があります。
城下から逃れようとする幾千の老人や子供、婦女たちが


皆、先を争ってこの小舟に先を争って乗り込もうとしていました。

 しかし舟は、多すぎる人数による重さのために
川の中程まで漕ぎ出た所で、
水の力に負けて転覆するものが続出をしました。
溺れる者なども次々に出てきて、急な水の流れの中に
相次いで呑みこまれていってしまいます。
救いを求めてみても、水の勢いが急な上に他の舟も
人を満載していますので これを助ける事が、
ままにならない状態がつづきます。

 川岸に群がっている者達も、
手出しさえもできずに、
ただこれを眺めている他に助ける手立てがありません。
それにも拘わらず、またもや小舟が動かないほどに争って乗り込むという
有り様が、岸辺では統制も無く続いていました。
舟に乗れない者は、衣を脱いで泳いで渡ろうとしています。
今まさに対岸に着かんとする寸前にこれまた、溺れる者も出てくるなど、
急流と化した阿賀川では、騒然とした有り様だけが際限もなく
ただただ無為に繰り返されていました。



 幸いにも、沿岸にいた農民たちが、
全力を挙げて、溺れる者の救助にあたったために死傷者は比較的僅少に
済んだという結果になりました。