舞うが如く 第五章 10~12
舞うが如く 第五章
(12)竹子が動く
政府軍がまじかに迫る若松の城下で、、
町民たちによる避難の準備がはじまりました。
22日の夕刻から降り始めた雨は、一向に止む気配をみせず、
一夜明けても、まだ相変らず降り続いていました。
遠くに聞こえる砲声にたじろぎながらも
どこか城下には、まだのんびりと構えた空気が漂っていました。
家財道具をまとめて荷車に仕立て上げる様子にも、
それほど差し迫った緊迫感などはありません。
しかし時刻と共に、砲声が近づいてきて
真近に銃声なども混じるようになってくると、
とたんにその様相が変わり始めました。
前線からは、悲報が次々と届きはじめます。
傷ついて、退却をする藩士たちの姿が街道に増えてくるにつれて、
今まで平静を保ち、静かだった城下が一変をしはじめました。
予想外ともいえる政府軍の急進撃ぶりは、
早くも、城下口へと続く滝沢坂の上にまで到達をし、
その姿をあらわしました。
刀を杖にして敗走する会津藩士の背後を
政府軍による容赦のない西洋銃の乱射が追いかけてきます。
あわてふためく町民と撤退をする藩士たちで、
往来はたいへんにごったがえし、
転倒した荷車からは、家財道具などが次々と
転がり出しました。
打ち込まれてくる砲弾は、瞬時に土塀や屋根を砕きます。
道路の中央に落ちると、大きな土煙とともに
石と土を空高くまで噴きあげました。
飛び散った屋根の瓦は、雨に混じって激しく人々の頭の上にも降り注ぎます。
数か所に放たれた火の手は、たちまちにして燃え広がり、
突入口の周辺では、黒煙と炎から逃げ惑う
人々で騒然となりました。
会津藩では藩士の家族たちに対して、
万がいち城下に危険が迫ったときには、いち早く警鐘を鳴らして、
避難の合図をするという決まりがありました。
非常時には、城に入るようにとの布告も慨に出してあり、
一般町民の避難も、これに合わせて行う手筈となっていました。
作品名:舞うが如く 第五章 10~12 作家名:落合順平