舞うが如く 第五章 10~12
しばしの間、言葉も無くこの光景に見入っていた少年たちが、
やがてもはやこれまでと悄然として、その肩を落としてしまいました。
流れ落ちる熱い涙をぬぐおうともせず、銃を足元に落とすと、
次々とその場に崩れ落ちてしまいます。
誰言うともなく、黒煙につつまれてすでに天守閣が見えなくなった
鶴ヶ城へと向かって、こうべを垂れ、唇を噛み合掌を続けます。
燃えさかる城下を見た少年たちは、
主君も、すでに城と運命をともにしたのに違いないと
早合点をしてしまいます。
しかしこの時に燃え上がっていた炎と黒煙は、
新政府軍が城下に突入した際に、突入口の藩士の邸宅や、
民家を焼き払ったためにできたものであり、、
会津若松城はまだ無傷のままで、無事にそびえていたのです。
しかしこの惨状を目の当たりにしたために、少年たちは、
落城後に生きて恥じをさらすよりも、潔く、城と運命をともにしようと
すでに決意を固めてしまいます。
「君国に殉じ、
武士の本分を全うしよう。」
野村駒四郎(17歳)がみなに提言をして
一同もまた、これに賛同を示します。
銃撃を受けていたために、深い傷とその痛みに早くから苦しんでいた
石田和助がまず、先んじてしまいます。
「人生、古より誰か死無からん。
丹心を留取して、汗青を照らさん」と誦し終わると
「手傷にて、苦しければ、お先に御免……」とばかり両肌を脱ぐと、
刀を腹に突き立てて、これを引き回し、
見事に自刃して果ててしまいました。
これを見た少年たちも
「もはや、これまで」とばかりに、
おのおのがついに覚悟を決めてしまいました。
われも遅れずとばかりに喉を突き、あるいは腹に突きたてて、
またある者は、互いに刃物を突きたててともに果て、
一様にしてその後を追ってしまいます。
さらに一足遅れて到着した少年たちもその場の様子を見るなりに、
我らも遅れじと、同じくまたその後を追ってしまいます。
その場で20名あまりの年端もいかない少年たちが、
折り重なるようにして飯盛山で非業の最後を遂げてしまいます。
作品名:舞うが如く 第五章 10~12 作家名:落合順平