舞うが如く 第五章 6~9
「時を稼ぐ必要もありますが、、
この地形では隠れようにも、あまりにも開け過ぎているために、
かえって不利になるでしょう。
このままでは、抵抗しながら、後退するだけで手一杯です。
あなた達は、一足先に若松城の照姫さまのもとへ、
警護に走ってください。
ここは、この琴と作蔵にまかせて、
まずは、お急ぎを。」
そうせかされて、立ち去ろうとした竹子の近くで、
一人の白虎隊士が立ち止まりました。
凛々しい鉢巻の下で、嬉しそうな16歳の瞳が輝やいていました。
その懐かしい面立ちに、先に竹子が気がつきました。
「いつぞやに、覗きを働いた、
まことに不届きなる、悪戯小僧でありますね。
わが薙刀より守りえた大切な命ゆえ、まごうことなく、
大切になされますように。
おお、、、それにしても・・・
見るからに凛々しい若武者に成長をいたされました。
あやうく、見間違えるところでありました。」
「あれより、
山本八重さまに鍛えれぬかれております。
身も心も、精進いたした賜(たまもの)と心得まする。
にもかかわらず、
いまだに竹子さまの、あのような・・・
白い柔肌が、わが眼に焼き付いて未だにどうしても、
この目より、離れることがなりません。
いかがしたら、
よろしゅうございましょうか。」
「そなたの、身も心も、
すなわち、健康であることの証に他ならぬ。
健全で有る事の印ゆえ、
あえて消すこともありますまい。
此処で会えたのも何かの縁、
又いずれの機会に、お目にかかりましょう。
我が薙刀より、幸運にしても逃げ伸びたる、お若い命。
かんたんに無駄にするでは、ありませぬぞ」
そう言いながら竹子が、
自分よりはるかに背丈の伸びたこの若武者を、
懐かしそうな眼差しで、ついぞ見上げています。
やがて思いついたように両袖を探すと、
袂より匂い袋を取り出しました。
「わが身(竹子)と思い、大事にいたせ。
生きて再会する時が、今から楽しみで有りまする。
では急ぎまするゆえ、
これにて失礼をいたしまする。
良き、ご武運を。」
しかし、時と共に十六橋を巡る攻防は激しくなります。
さすがの武勇ぶりを誇る会津守備隊も、
やがて苦戦が強いられてきました。
作品名:舞うが如く 第五章 6~9 作家名:落合順平