ラストプレゼント
その夜のことです。赤えいは昼の騒ぎで睡眠を邪魔され不機嫌で、海はすこぶる荒れていました。赤えいが起こした波がピアノをゆさぶると、
ポロン、ポロロン……。
優しいメロディの音楽が響きます。
ピアノは一人ぼっちで、歌っていたのです。ときどき海禿の群れがきて、壊れかけたピアノの上で遊びにくるぐらいでした。
海の底でなっているピアノの音は、島の桟橋のところまで聞こえてきました。
ポロン、ポロロン……。
「なんだろう? 海の中で音する」
ピアノの音を聞いた男の子が、隣の女の子に聞きました。
「あれはきっと、人魚が歌っているのよ」
女の子は、夢見るような顔つきで答えました。
その夕方、自転車に乗っていた若いカップルも、ピアノの音を聞きました。
ポロン、ポロロン……。
近近婚礼を挙げる二人にとっては、かすかに聞こえてくる音楽が、自分たちの心の中で響いているように思われました。