さかなととり
川底で擦ったりという、擦り傷さえもないのだからすごい。
怪我がないことを確認するのと同じくらいに、遠くのほうから聞こえてくる声に気がついた。
「と・・・る・・・!と・お・・・・る!!!」
トオル?そう言っているのだろうか?きっとこの少年の名前は、トオルなのだろう。
さかなが飛びこんだ橋の近くにいる、ひょろりとした背の高い男。
その男が2人へと走りこんでくる。
トオルもその声に気がついたのか、きょろきょろと声のするほうを探していたのだが、すぐにその方向を見つけると大きな声で叫ぶ。
「センセイ!!!!」
さかなは、思わず笑顔になる。
(よかった、この元気であれば心配することもないな。)
自分の額を伝って落ちてくる水を拭い取って、トオルの頭に手をやってぐりぐりと撫で繰り回す。
「・・?お前のせんせい?」
少年はするりとさかなの手から逃れて、手を男たちの方へと向かって振りながらその方向へとゆっくりと歩き出す。
「うん、鳥先生!!」
「とりぃ・・?変な名前。」
先生が、夏休みに子供の相手をして川に流されたとかなると大事件だよな。
というかこの場合、俺もなんか痛くもない腹探られそうで嫌だな・・。
「俺、行くね!」
「おお、今度は気をつけろよなっ」
さっきまで死に掛けてたとは思えないような素早さで、そのセンセイの元へと走り出した少年。
そのセンセイの後ろには、もう2人の小さな少年と少女がさかなとその少年の様子を眺めていた。
顔は、蒼白。
死にかけたのはどっちなんだ?と一瞬見まごう程の顔色の悪さが、どれだけ心配をしていたのかを物語っている。
「じゃあな!」
トオルは急にさかなへと振り返り、聞く。
「あんた、名前は?!」
「名乗るほどのもんじゃないよっ・・、」
と、格好のいいことを言いながら、さかなは足早に立ち去る。
それも、その男たちに妙な質問をされる前に。