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さかなととり

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3 河童登場。






汗をぬぐいながら、道路の標識を頼りに歩くこと30分。
いつの間にか、涼しい風が頬を撫でる。
川が近いのか?そこで冷やされた風がさかなを包み込む。
周囲も、先ほどとはがらっと変わって田んぼではなく、木が多き見え始めた。
この場所は川の近くと言うこともあるのか、緑が多くまるで森のように鬱蒼と生い茂っている。

ほんとに、田舎だな・・。

都会生まれの都会育ちのさかなからすると、こんな風景には見慣れてはいない。
父親の祖父母も東京生まれの東京育ち、母も博多生まれの博多育ち。
海にはよく行った事はあったが、山には行った事はなかった。
東京はもちろん、オフィス群で、博多も田舎とは程遠い場所である。

まあ、田舎だから悪いと言うわけではない。

空気もおいしいし、緑が視界を良好にして、
清清しい風が気分をよくしていく。

道路沿いに現れたのは、流れる川と緑の洪水。
川は、緑色になっており、深そうなのは見た目にも確かであるが、流れは少し激しい。
台風直後だからだろうか?水も多い。
地図の通りであれば、すぐそこに大きな橋があるはずなのであるが・・・。
急に突風が吹き、その風で吹き飛ばされそうになる住所の紙。
その紙を必死に飛ばされないようにと引っつかんでポケットへとしまう。


「・・・・橋。」


紙が飛んでいきそうになった方向へと視線を遠くに遣った時に現れた大きな橋。
なんで、今まで気が付かなかったのか?と疑問に思うほどに、橋はどしんとさかなの目の前に横たわっていた。
ずっと歩き続けていた足を止める。

橋は、大きく緑の川面にその姿を映しこんでいる。
幻想的な雰囲気。
激しい流れにしてはそこまで砂を巻き込んでいるわけでもなく、川底が見えそうなくらいに澄んでいる。
橋の影になっている部分には大きな魚が3匹ほど漂っているのが見えた。
そのまま見ていてもいいのだが、昼も過ぎ夕方に近づいてきた今この場で母の家を探し出せずに野宿と言うのもありえる話だ。
さかなは歩を進めて橋の先端までやってきた。
橋のすぐ手前にある少し錆びた看板には、ひらがなで「みまた」と書かれた文字がある。

ここが、母が住んでいる・・・・であろう場所。
母の再婚相手であるお医者の先生が働いている場所なのである。
先ほどの地図からするとこの「みまた」の橋と、母の住むであろう臼桜美又は同じ地区に位置している。

橋の両端にも中央にも草が生え、あまりこの橋が使われていないことを物語っている。
大きな橋なので車だって何台も通れそうだが、良く考えてみるとここの駅に降り立ってからトラクターだけにしか
出会っていないのだからこの場所にはあまり車は必要ないのかもしれないなっと、妙に頷けるというかなんというか。

さかなは鼻歌を歌いながら橋を渡っていく。
橋の中央へとやってきた時、さかなは立ち止まった。
鞄を橋の手すりへと置きながら周囲へと視線をやる。
思っていた通り川の流れは激しく、川の端のほうは少しだけ波打っているように見えた。
川の音と同じように蝉の声が激しく鳴り響く。
まさしく夏の声が、さかなの耳を騒がせる。
一匹の蝉が、さかなの方へと何を血迷ったのか勢いよく飛び込んできた。
さかなはそれに驚きそのまま顔を俯かせたそのとき、目の中に赤いモノが映った。





「へっ!?」






河童の川流れ・・・・?
田舎とはいえ、河童はみられないだろう。
その前に河童は赤くないだろうし・・。
さかなは、汗でも入って変なものでも見えるのかと目を擦ってみるが
目の前に飛び込んでくるのは、人のものであろう小さな腕。
浮き沈みする頭。



「・・・・人!!!!!!!」


ま、まじですか?!

さかなは焦った。
焦って、心臓がどくどくと血液が早く流れていくのを感じる。

「・・・。」

今は考えている場合ではない。
さかなは、手に持っていたカバンをその場に投げ捨てる。
思いのほか遠くへ飛んでいったように見えたが、そんな事は今はどうでもいいことである。


橋の手すりを乗り越えて一瞬この場所が深いのかどうだか考えようとしたが、
身体はもう、手すりから手を離して飛び込んだ。

ばしゃんと大きな飛沫が巻き起こる。
思わず飛び込んだのは良かったものの川の中は思ったとおり深く、流れが速い。

顔を叩く川の水流に、服の重み。
さかなは、水を蹴ってすでに先へと流れて行った頭の持ち主を追う。
水が重い反面、流れがクロールで泳いでいく魚の手助けとなっていた。

「・・んっ!」

目の前に浮き沈みする頭を、持ち上げ、沈んでいた顔を持ち上げる。
水しぶきが飛び散り、さかなの両腕の中でもがき苦しむように小さな体が浮き上がる。
その顔は驚きと恐怖が占領し、急に持ち上げられた事でも激しく驚愕したのか、じたばたと激しく動く。

「おっ・・・っおちつけ!」

口から出た言葉はすぐに、川の音にかき消されていく。
手から離れようとするその身体をもう一度、支え直してしがみ付かれる可能性のある正面ではなく背後から回り込む。
少年のちょうど腕の下に手を回す。
口の中に水が入らないようにとなるべく川の流れに逆らう事はしないが、一応岸への誘導は忘れない。
足で水を蹴っていく。

あと、数分くらいなら持つけどこの流れでこの調子で行くとちょっとやばいな。

さかなは、自分の腕の中にいる少年に視線をやる。
大人しく抱きかかえられているが、いつパニックを起こしてもおかしくはない。
だが、水流は急に穏やかになった。

さかなはそのまま、少年の身体を背後から抱きながら近くにある川岸に泳ぎ着く。
岸はごつごつと大きな石が転がっており、座るには不十分過ぎる様な場所ではあったが、今の二人には十分すぎるほどの場所である。
さかなは、座っている体勢からそのまま後ろへと倒れこむ。
「いって!」
勢い良く倒れたせいだろうかそのまま頭を石にしこたま打ち付けて小さく出た声。
その声に少年は、一瞬であるが呆然としていた表情を元に戻してありがとうと呟いた。
さかなは、自分の打った頭を撫で撫でしながら少年の背中を見る。

「大丈夫か、痛いとことかはない??」
「・・・うん、大丈夫」
「よかったなぁ。」

急に振り返ったかと思うと、少しだけ笑顔を見せて自分もさかなの様にそのまま倒れこんで寝転がる少年。
少年は赤いランニングに半ズボンと言う田舎の少年を地で行くような格好をし、短く刈り上げられた髪の毛は水に濡れて今はしっとりと顔に張り付いている。
ふうと、安堵の息を吹きながら額に付いた髪の毛を拭い取る。

寝転がったさかなの目に映った木々の割れ目から見える空は、普通に青く今起こった出来事が嘘のようである。

そのまま空から視線を何気なく川へと移すと、大きな流木が流れて行くのが見えてさかなはひやりとした。
2人ともどこにも怪我がなかったのは、不幸中の幸いだろう。
いっつも、あんな流木が流れてくるとは思えないけど。
さかなはばっと起き上がると、ゆっくりと隣で少しだけ寒さからなのか震えている少年を立ち上がらせて、一応怪我の有無を確かめる。

先ほどまで呆然としていて大丈夫だと言っているが、それが年長者としての勤めであろう。
怪我は・・ない。
作品名:さかなととり 作家名:山田中央