クリスマス・ディナーに、蟻が ・・・
「おいおいおい、男をからかうのはよせよ」
涼太はムカッときた。
「だって涼太さんは、あの時だって私を選んでくれなかったでしょ。
もう良いのよ、その代わりに、涼太さんをこれからも応援するから・・・・・・
クリスマス・プレゼントに、蟻十匹分くらいの蜜をくれたら、私、それだけで嬉しいの」
真奈がまたまた奇妙なことを言う。
「蟻十匹分って?」
涼太は首を傾げる。
しかし、真奈が何を言いたいのか、そして何を欲しているのか、およその見当が付いてきた。
真奈は涼太が自ら気付くのを待っているのか、じっと沈黙を保っている。
そして涼太はおもむろに答を口にする。
「真奈さん、そうだね、確かに出世払いの約束だったよな。
うん、そうするか・・・・・・で、礼金は、毎月3万円でいいかな?」
これを聞いた真奈、そこへ黒毛和牛フィレステーキフォアグラ添えのメインディッシュが運ばれてきて、頬が微妙に緩む。
ボーイが去り、黒胡椒を少し掛けた後、真奈は「お気持ちだけで、充分よ」と遠慮深く言う。
そしてミディアムレアーのフィレステーキを味わいながら、続ける。
「私はちっちゃな蟻よ、だけど、ちくりと刺す刺客。
涼太さんのために蟻十匹分くらいの働きはしてきたでしょ。それと、これからもサポートするわ」
「わかってるよ、真奈さんへの恩義は決して忘れないよ」
確かに涼太は仕事上真奈と持ちつ持たれつ、いやそれ以上に真奈は涼太の裏の刺客として働いてきてくれた。
真奈とのこの腐れ縁を切るわけにはいかない。
「そうお、ありがとう。だけど、涼太さんがもっと偉くなっても、私と娘の美月を見放さないでね」
さすが真奈だ、最後にきっちりと念押しをしてくる。
作品名:クリスマス・ディナーに、蟻が ・・・ 作家名:鮎風 遊