僕の村は釣り日和1~転校生
どうやら山間の村ではカサゴなんてみんな知らないらしい。
「そりゃ、おいしいさ。刺し身や煮付けにすると最高だぜ。もっとも見た目はちょっとイカツイけどね」
僕はみんなの知らない魚を少し得意げに紹介した。そして自由帳にカサゴの絵を書いてみせた。
「何これ? ブラックバスにそっくりじゃん」
同じ六年生でガキ大将の高田君が茶々をいれた。するとみんなが僕の周りに集まってきた。
「ブラックバスは悪者なんだぞ。桑原、お前は悪者を釣って自慢してんのか?」
高田君は更に僕を追い込むように巻くし立てる。
教室のみんなも冷ややかな目で僕を見ていた。
そんな時、教室の扉がガラガラと開いた。みんなは一斉に自分の席に戻る。
担任の斎藤先生と一緒に一人の男の子が入ってきた。転校生だ。この地域で転校生は珍しい。何せ古くからの地元の子供ばかりだ。
転校生はショルダーバッグを肩に下げ、みんなと目を合わせることなく、教室の天井を見ていた。僕も教室の天井を見る。古ぼけた染みがオバケのような顔をして、そこにあった。
転校生は着ている服といい、ショルダーバッグといい、こんな山間の小学生とはセンスが違っていた。どこか都会の匂いをプンプンさせていた。
先生が黒板にチョークで何やら書き始めた。
「東海林正」
黒板にはそう書かれていた。
(とうかりんただし? 変な苗字……)
僕は心の中でそうつぶやいた。
「みなさん、おはようございます。今日は二学期から六年生として、みなさんと新しくお友達になる、『しょうじただし』さんが転校してきました」
先生がそう言うと、ガキ大将の高田君がいきなり席を立った。
「でも、何で『とうかいりん』で『しょうじ』なんだよ?」
「昔からそういう読み方をするんです。東海林さんは神奈川県から引っ越してきたばかりで、この辺のことはよくわからないから、みんな仲良く、親切にしてあげてくださいね」
子供の素朴な疑問に少し困ったのだろう、先生は頭をかきながら、照れたように言った。
「変なの……」
「やっぱり、『とうかいりん』でも、いいんじゃない?」
「わはははは……!」
その爆笑に転校生が教室中をジロリと睨んだ。妙に殺気立ったやつだった。
「先生、席はどこですか?」
作品名:僕の村は釣り日和1~転校生 作家名:栗原 峰幸