スターブレイダ―ズ
するとシンジはレナの胸倉をつかんだ。
そこへチサトが泣きそうになりながらも駐在しようとした。しかしレナは本当に泣いていた。
「アンタ、最低ね……」
「何?」
「知ってるでしょう、ナイトには設備とか武器弾薬にお金がかかるって……」
「それが何だって言うんだよ?」
「今のスター・ブレイダーズの状況を見ればわかるでしょう、ホーク小父さんはね、今まで嫌な相手に頭を下げてまで借金をしてチームを立て直そうとしてたのよ。しかも今度の日曜日の試合に勝たなければスポンサーから手を切られるって言われてたのよ!」
「……そんなの、初めて聞いたぜ」
シンジは目を丸くした。
「言いたくなかったのよ、小父さん、いつもそうだから……」
チサトは目を閉じた。
シンジは重くて辛い緊迫した不意息に包まれた。
「……もう、いいんだ」
するとホークが目を覚ました。
「小父さん!」
「私が間違ってた。好きでも無いSSBに君を巻き込もうとしてバチが当たったんだ……」
「そんなつもりじゃ……」
「分かっている、だがこれも運命なのかもしれないな…… 今度の試合はキャンセルにして、スター・ブレイダーズは本格的に解散する事にするよ」
「ホーク小父さん、」
「……だがせめてもう一度、あの時に戻りたかった」
ホークの目から一筋の涙が零れ落ちた。それを見たシンジは歯を噛み締めて握った手を振るわせた。
「させねぇよ…… 解散はさせねぇ!」
「シンジ?」
「負けたよ小父さん、オレやれるだけやってみるよ……」
「シンジ君。」
「その代り、今回だけだからな。負けて解散してもオレの責任じゃないからな……」
シンジの素直じゃない一言にホークは目を細めて嬉しそうに頷いた。
その後家に帰って来たシンジはクローゼットの中から1つの箱を取り出した。
開けて見るとそこには父の遺品であるスター・ブレイダーズのコスチュームである宇宙服とヘルメットが入っていた。
そして箱の底に入れてあった写真を取り出した。それはスター・ブレイダーズが『スター・オブ・パラディン』で優勝した時の写真だった。大きなカップを持った父ハヤトとホークとその仲間達、そして中央には幼き日の自分とレナ、チサト、ハルも笑っていた。
「親父……」
シンジは目を閉じたがやがて決意を固くして立ち上がった。その目にはもはや迷いの無い闘志が浮んでいるのであった。
翌日シンジはレナとチサトとプロメテスを連れてある場所に向かった。そこは宇宙船やシャトルを格納する為の契約倉庫だった。仕事は有給をとってハルから車を借りてそこに向かうとホークから預かった鍵で重い扉を開けた。
真っ暗な部屋に明りをつけると巨大な戦艦が姿を現した。全長千メートルを越える白く巨大な装甲の…… まるで城をイメージするかのような戦艦だった。これはナイトを格納・運送する為の戦艦スター・キャッスルである。
「……久しぶりだな、ここにくるのも」
シンジ達は昔、長期休みになるとよく遊びに来ていたが今は近寄る事すらなかった。
「こっちに……」
シンジ達はスター・キャッスルの中に入り廊下を進んで行く、向かった先は格納庫、そしてそこにあったのは5機の戦闘機だった。
武装とカラーリングは違うが全てスター・ブレイダーズ専用のナイト『スター・ブレイド』である。
ブロード・ソードの形状に4枚の翼が生えたようなその機体には五亡星と両刃剣のブロードソードが重なったシンボルマークが描かれている。
「……親父」
シンジは一番左端にある白い装甲のナイトを見る、これは父の愛機、スター・ブレイド01だった。良く手入れが行き届いているが所々細かい傷も見られる、
「下手なクルーに使われてたんだな……」
レナ達も他のナイトを見ているが気付いた事が1つある、それはナイトの整備状況だった。
機体を見る限りスター・ブレイド03以外は殆ど使われていないのだ。それは今のスター・ブレイダーズの状況を見れば一目瞭然、武器弾薬、燃料に掛かる金を削り出撃するナイトを最低限に減らして今まで戦っていたのである、
この時シンジはホークの努力と辛さを改めて痛感した。やる気を無くしスター・ブレイダーズを辞めてしまった者達、そして敗北続きで見限ろうとしているスポンサー達の間で苦しんでいたのは誰でもないホーク自身、そんな彼を認めようともせずにチームを受け継ぐ事を拒否し続けた自分が腹ただしかった。
「クソッ!」
シンジが両手で機体を叩くと目頭が熱くなる、涙は流れないが自分自身への怒りでいっぱいだった。両肩を震わすその姿を遠くからレナは見詰める、
「シンジ……」
その姿に気付いたのかシンジは体を起してレナに言った。
「……レナ、オレは終らせない、」
「何よ?」
「スター・ブレイダーズをだよ、絶対に終らせない!」
幼馴染のレナには分かっていた。この時のシンジはいつものような調子の良い事も中途半端な事も言わないしやらない本気の目だった。
「うん、」
レナは頷く、するとチサトとプロメテスもやってくると一緒に頷いた。
「私も手伝う、プロメテスもだって……」
プロメテスは右手を大きく左右に振る、最早彼らに言葉は要らなかった。シンジは右手を差し出すとその上にレナ、チサト、プロメテスが手を重ねたのだった。