スターブレイダ―ズ
「あれから色々努力したんだよ、見違えただろ?」
「……うん、本当」
レナは改めてカイトの唐竹から爪先までを見下ろす、
かつては肥満児だったが今ではちょっとした雑誌のモデルくらいはできるだろう、町を歩けば女の子が噂をするくらいの美形の若者に成長していた。
「僕が虐められてると君達が助けてくれたんだよね?」
「……シンジは半分以上泣かしてたようなモンだけどね」
「う、うるせぇよ」
シンジは口を尖らせた。
シンジは決して虐めていた訳ではない、だがカイトは性格上少しでもきつい事があると泣いたりしてしまうのでついやりすぎて怒鳴ったりしてしまう事があった。
「そう言えば2人の事は色々聞いてるよ、SSBを始めたんだっけ?」
「ええ、大切な戦いの最中なのよ」
「……そうかい?」
「えっ?」
今の言葉が気になった。
するとカイトは2人に背を向けた。
「まぁ確かに、2人は凄いよ。だけど次の試合は棄権した方が良いよ」
「んだと?」
「カイト君?」
するとカイトは少し間を置いて言った。
「無残な敗北をさらすよりはずっといいだろうって意味だよ」
「俺達が負けるってのか?」
「ああ、確実にね」
カイトは振り返るとズボンの後ろのポケットからある物を取り出してシンジ達に見せた。それは何とナイト・ライセンス、しかも描かれている紋章は……
「ブラッディ・ムーンっ!」
「何ぃ?」
シンジは目を大きく見開いた。
「そう言う事だ。僕はブラッディ・ムーンのナイト・クルーになったんだよ」
しかもさらに衝撃の事実が告げられた。
「サムライ・ジパングを倒したのは僕だ」
「何だって?」
「ま、あんなアナログなナイト、僕1人で十分だから」
今の言葉にシンジは眉間に皺を寄せた。
「カイト、お前タケシを侮辱すんのか?」
「タケシ? ……ああ、サムライ・ジパングのクルーかい? 侮辱も何も負ければそれまで、スチール・ランク最強と言ってもあの程度だったとは、少々がっかりだよ」
今の言葉にシンジは右手を強く握りしめた。それを見たレナはシンジを止めた。
「シンジ、喧嘩は駄目よ!」
このまま拳が出ればクラスチェンジ・バトルはおろかライセンスの取り消しは免れなかった。しかしレナもカイトの言葉が許せなかった。
「カイト君、貴方がどうと自由だけど、一生懸命戦ってる人を侮辱するのは許される事じゃないわ」
レナも顔を強張らせるとカイトは失敗したと言う顔をすると目を背けて口をへの字に曲げた。
「そうだね、少し言い過ぎたようだ…… でもこれだけは言わせてもらうよ」
カイトは大きく息を吐くとレナを見た。
「単刀直入に言うよ、レナちゃん、ブラッディ・ムーンに入ってくれ」
「えっ?」
「何だと?」
一瞬シンジ達の時間が止まった。しかしカイトは構わず続ける。
「君の力はブラッディ・ムーンでこそ真の力を発揮できる、あそこには最高の設備と最強のナイトがある、僕個人としても君と一緒に戦いたい、小さいチームで潰れるよりはずっと良いはずだ」
「おいカイト、調子に乗るんじゃねぇぞ」
シンジは声を低くする、
「黙って聞いてりゃ偉そうに…… テメェ俺のチームまでバカにする気か?」
シンジは怒りに身を震わせた。
「勝手に口を挟まないでくれ、これは彼女の為だ」
カイトはシンジをまるで見下すかのように言った。
「レナちゃん、僕は……」
「テメェっ!」
シンジはついに頭に血が上り殴りかかろうとした。
「辞めて! シンジっ!」
レナはシンジの胴に手を回すとシンジを抑えた。
「離せレナ! こいつだけは許せねぇ!」
「ダメ! ここがどこだか分かるでしょう!」
レナに言われてシンジは我に返る、周囲の客達は何事かとシンジ達を見ていた。
シンジはレナの腕を振り払うと不機嫌そうに息を吐いた。
「……まぁいい、レナちゃん。結果は次の試合で必ず出る、その時に答えを聞かせて欲しい」
カイトは歩き出すとシンジを横切った。しかしその際わざとシンジに聞こえるように言った。
「今度の試合、僕は君を確実に潰す」
その瞳はどこか暗く憎しみに満ちていた。
そのままカイトはそのまま人込みに消えて行き、シンジとレナはその場に取り残された。やり場のない怒りと虚しさだけを残して……