スターブレイダ―ズ
その翌日、
シンジは1人でターミナルで待ち合わせをしていた。
「遅いな、しかも俺1人って……」
シンジは腕時計を見て顔を曇らせた。
実はチサトが突然熱を出してしまいビアンカが付き添いをする事になったので遊園地にはレナと2人で行く事になった。
だが待ち合わせ時刻はとっくに過ぎているのだがレナの姿はまだ無かった。
「お待たせ!」
背後から聞きなれたレナの声が耳に入った。
「お前、遅……」
やっと来たかとため息を零し振り返る、しかし次の瞬間シンジの目は丸くなり言葉が無くなった。
一瞬別人かと思った。だが目の前にいるのは確かにレナだった。
頭から白い麦わら帽子をかぶり、青いサマードレスにその上から白いカーディガン、右肩には白い手提げバック、少し踵が高い赤い靴を履いたレナからはいつもと違う魅力が引き出された。
「ごめん、目覚ましの電池切れてた……」
「……お前、レナか?」
「な、何よ、何か変?」
レナは肩を窄めながら顎を引いてシンジを見る、
「……い、いや、って言うかそんな服持ってたのか?」
「ああ、シーラからの借りものよ」
昨日、シーラがレナの家に訪ねて来て渡されたのだと言う、
「びっくりしたわよ、玄関開けたらまたあの黒服のボディーガードが沢山いるんだもの……」
「だな、あの時は本当にゾッとしたぜ……」
シンジはかつてシーラがスター・キャッスルを訪ねて来た時の事を思い出した。
2人ともあの時の緊張感が蘇り冷や汗を流した。
「と、とにかく行くか、時間が勿体ない……」
「そ、そうね…… でも勘違いしないでよ、2人きりだからってデートじゃないんだからねっ!」
「だっ、誰と誰がデートだっ?」
シンジは思わず顔が赤くなった。
その後2人はモノレールに乗ってサテライト・ランドまでやって来た。今日は休日と言う事で客足が多かった。
「一度来てみたかったのよ、楽しみだわ〜」
「そ、そうか……」
「ほら、ボ―ッと突っ立って無いで行くわよ!」
レナはシンジの腕を掴んで歩いた。
「お、おい、レナ?」
シンジは引きずられるように園内を見て回った。
ジェットコースター、観覧車、バーチャルお化け屋敷など、2人は様々なアトラクションを回り楽しんだ。昼食は園内のレストランでバイキング料理を頬張り2人は久しぶりの休日を楽しんだ。
「こんなに楽しんだの久しぶりね、次はどこに行く?」
レナは隣を歩いているシンジを見るがシンジは上の空だった。
「シンジ!」
レナはシンジの前に出ると顔をジッと覗いていた。
「う、うおぉっ?」
シンジは思わずその場に尻もちをついてしまった。
「痛てぇ〜……」
「ちょっ、大丈夫?」
「あ、ああ…… 悪い」
シンジは立ち上がろうとする、
するとレナが隣にしゃがみ込むとその白い手をシンジの額に当てた。ひんやりとした体温がシンジに伝わる。
「ひっ?」
思わず肩をビクつかせるシンジ、
「う〜ん…… ちょっと熱っぽいわねぇ、チサトちゃんの風邪がうつったんじゃない?」
「だ、大丈夫だっ!」
シンジはレナの手を振りほどき立ち上がる、
「そ、そうだ! 喉乾かないか? 何か買って来てやるよ!」
「ちょ、ちょっとシンジ、私は別に……」
レナが呼びとめるのも聞かずにシンジの姿は小さくなっていった。
「ったくしょうがないなぁ……」
レナは腰に手を当てた。
シンジは思わず逃げ出してしまった。何故かは自分でも分らなかった。
今までレナと出かける事は結構あった。しかし今回は服装一つ違うと言うだけでいつものレナが別人のように思えてしまい、一緒にいる事が耐えられなくなってしまったのだった。
「な、何でレナ何かにドキドキしてるんだよ…… ビアンカさんやシーラちゃんならともかく……」
シンジは顔をしかめて首を振る、目の前にある水飲み場の蛇口を捻って水を出し、それを頭から被って頭を冷やす……
「さてと…… うっ!」
やがてシンジは墓穴を掘った事に気付いた。
レナの姿がどこにもなかった。しかもここはレナと歩いていたアトラクション・エリアからかなり離れたサテライト・ランドの出入り口ゲートの側だった。走り回るのに夢中でいつの間にかこんな場所にまでやってきてしまったのだった。
「やべっ! 見失った!」
シンジは慌ててズボンのポケットから地図を取り出してレナとはぐれた場所へ戻った。
一方レナは待ちぼうけを食らっていた。
「遅いなぁ…… 何やってんだろ」
レナは待ちきれなくなり手提げバックの中から携帯電話を取り出した。
するとその時だった。突然後ろから歩いてきたカップルがレナとぶつかった。
「きゃっ?」
レナはその拍子に携帯電話を落としてしまった。
「あ、すみません」
カップルの男が謝罪する、
「いえ、こちらこそ……」
レナも申し訳なさそうに頭を下げるとアスファルトに落ちた携帯電話を取ろうとした。だがその時だった。
「あっ?」
目の前にシンジよりも背の高い男が現れてレナの携帯電話を手に取った。
「はい、落ちましたよ」
携帯電話が自分の前に差し出される、
「あ、ありがとうございます……」
レナは礼を言うと携帯電話を受け取った。
シンジは全速力でアトラクション・エリアに戻って来た。
そしてはぐれた場所でレナを見つけ、良かったと安堵する、しかし……
「ん?」
次にその目に映ったのは見慣れない少年だった。
ざっと見て190は超えているだろう、黄色の肌に七三分けの黒い髪と細い顎、やや細いががっちりした体格で、白い半袖のYシャツに紺のジーンズ、黒い革の靴を履いていた。
「レナっ!」
シンジは叫ぶ、
するとレナと少年は振り向いた。
「あ、シンジ! どこに行ってたの?」
レナが目を吊り上げるとシンジは膝に両手をつきながら肩を上下に動かした。
「し、しょうがねぇだろ…… で、こっちは?」
シンジは少年を見る、
シンジは鏡を持って無いのでどんな顔をしているのか分からないが、少年はシンジの顔を見ると少し不機嫌そうな顔をした。
「あ、この人ね、私の携帯を拾ってくれたの。とにかくありがとうございました」
レナは改まって頭を下げる、
「お礼なんていいよ、レナちゃん」
「えっ?」
「それにシンジ君も、そんなに怖い顔をしないで……」
「なっ?」
少年は2人の名前を知っている、
不思議がってシンジとレナは互いの顔を見合わせると少年は胸に手を当てると微笑しながら答えた。
「まだ思い出さないの? 小学校の時に一緒だったカイトだよ。」
「カイト…… ええっ?」
「お前が?」
2人は記憶の扉を開ける、
カイト・トウマ、それは自分とレナの小学生時代のクラスメートだった。
彼はクラスで一番背が低くかつ肥満、尚且つ運動音痴で勉強がまるでできず、尚且つすぐに泣き出してしまう為に『泣き虫カイト』と言うあだ名が付けられてしまったのだった。
「……まぁ、覚えて無くても仕方ないか、卒業と同時に別の中学に行っちゃったからね」
「ビックリした。大きくなったのねぇ……」
かつてはレナの方が大きかった。しかし今ではバスケットの選手だと言っても違和感なく信じてしまうほどだった。