スターブレイダ―ズ
第3話 男気VS侍魂
今から数年前にある公園で起こった出来事だった。
ここでキジトラ猫の刺繍の施されたシャツを着てジーンズのスカートを穿いた幼い少女が大きな犬に襲われそうになっていた。
黒くて大きな犬は情け容赦なく怯えて泣いている少女に咆えまくった。
『やめろーっ!』
そこへ現れたのは幼馴染の少年だった。
厚手の緑の長袖の服に流れ星のマークが描かれたシャツと半ズボンの元気一杯の少年は木の棒を振り上げながら犬を追っ払った。
『大丈夫か?』
『うん……ありがとう』
少女は涙を手の甲で拭いながら頷く。
『2人供!』
さらにそこに少女よりも背が高い、中学生くらいの少女がやって来た、栗色のウェーブの腰まであるストレート、白いYシャツに赤いネクタイを締め、その上から赤いガウンのシャツと皮のジャケットをはおり、ミニスカートに膝下まであるブーツを履いていた。
『大丈夫? 怪我はない?』
『ウン、助けてくれたから』
『えらいわね、さすがは男の子よ』
褒められた少年は白い歯を見せながら右頬を掻いた。
『だってボク、大きくなったらナイト・クルーになるんだもん』
『そうね、アナタならリッパなナイト・クルーに慣れるわね。何せ女の子を助けた白馬の騎士なんだもの』
『えへへ……』
少年は指先で鼻を擦と世界は真っ白になっていった。
「おいレナ、レナ!」
シンジに起こされてレナは起きた。
「うん……っ?」
するとシンジと視点が合うとレナは目を丸くして身を震わせた。
「きゃあああ〜〜〜ッ!」
その叫び声はスター・キャッスルに響かんばかりだった。
「このバカ、何つー声出しやがるっ?」
「アンタこそ何のつもりよ? 女の子を起こすならもっと普通に起しなさいよ、夜這いじゃないんだから!」
「はぁ? ふざけんな! お前に夜這いかけるくらいならその辺の野良犬のメスに恋した方がまだマシだ!」
「何んですってッ?」
「何だよッ?」
睨み合う2人の視線の間に火花が飛び散った。
そこへ今まで電話をしていたホークとナイトの調整をしていたつなぎ姿のチサトとプロメテスがやってきた。
「何だ。またか」
「いつもの事ですよ、お兄ちゃんとお姉ちゃんは2日に一度はケンカするんです、まぁ私達は慣れてますから」
チサトが言うとレンツを持ったプロメテスが腕を左右に振った。
「いつまで経っても成長しないって、プロメテスも言ってますよ」
チサトが通訳する。
「しかし、この状況を何とかしないとな…… 今ならいいが戦闘になったらやばいぞ」
「そうですね、でも私じゃもちろん無理ですし、小父さんほどの年上の人でもかえって逆効果ですよ」
「子供の気持ちが分かる大人…… そう簡単にいるかな?」
ホークは腕を組み眉間に皺を寄せた。
その頃、スター・キャッスルの契約倉庫に車が止まった。
助手席に置いていた大きな荷物を両手で持ち上げると倉庫の中に入って行きシンジ達が喧嘩をしているオペレーター・ルームにやってきた。
チサトが彼女の顔を見ると大きな瞳をさらに丸く広げた。
「あ……」
「おひさしぶり、チサトちゃん」
チサトに向かって優しい笑みを浮かべた。
「おお、帰ったかビアンカ」
「「ビアンカ?」」
シンジとレナも振り向いた。
そしていつの間にかそこにいた長身の女性を見ると喧嘩の二文字が頭から消えてしまった。
彼女の名はビアンカ・フレイ、ホークの娘であった。栗色のしなやかなウェーブのストレート、美しく細い顔立ちに穏やかな瞳に長い睫毛に赤く膨らんだ唇、発達した肢体にはワンピースを着込み上からカーディガンを羽織っていた。
「お久しぶり、相変わらず元気ね2人供」
「元気元気、オレ病気1つした事ないっスよ」
「バカは風邪引かないから……」
「レナ、お前何か言ったかっ?」
「いいえ、別に」
レナは両手を上げて否定した。
だがシンジにははっきり聞えていたのだった。
「ところで、ビアンカさんはどうしてここに? お仕事の方は?」
チサトが訪ねてきた。
「えっ、ああ…… お休みを貰ったのよ」
「休み? 何でまた……」
「そ、それは……」
ビアンカはシンジから目を反らしてしまった。聞いてはいけない事だったと気付いたレナは肘でシンジをつついた。
シンジもそれは分かったようで慌てて頭を下げた。
「あ、いいのよ別に…… 悪気があって言ったんじゃないでしょ?」
「ビアンカさん……」
すぐに怒るレナと違って全てを慈悲深く許す女神のようなビアンカにシンジは涙を流し喜んだ。
「……何よ、デレデレしちゃって〜ッ!」
レナは眉をヒクつくかせる。
「ちょっとした事があってね、長期休暇をもらったのよ」
「へぇ、じゃあしばらくこっちに?」
「うん、そうするつもり」
「よっしゃッ! んじゃ今夜はパーッとやろうぜ。久々にビアンカさんが帰ってきたんだしさ、いいだろ小父さん?」
「……まぁ、少しくらいならいいだろう」
ホークは鼻で笑った。
その夜、レナとチサトとプロメテスが作った料理がスター・キャッスルに並べられた。シンジの好物のエビフライが山のようにある。
「あらあら、しばらく見ない内に随分上達したわね」
「ああ、プロメテスと一緒にがんばってたからな」
「もちろんチサトちゃんもだけど、レナちゃんだって随分家庭的になったじゃない?」
「そうスか? 久しぶりに食ってみたけど、そんなに上達してねぇと思うけど」
「アンタねぇ〜っ!」
レナはシンジを睨みつける。
「そう言えばシンジ君達って、SSB始めたのよね?」
「え、ええ、まぁ……」
するとビアンカは携帯電話を取り出すとネット新聞を画面に映し出した。
実はニードル・スパイダーズ戦の後にシンジ達は公式戦を3回ほど行った。3人はまだ素人だが他のチームには無い独自のチームワークにより難局を乗り切ってきたのだった。
「ああ、この間の……」
「新生スター・ブレイダーズ、早くも5戦5勝…… って、随分大げさね」
「そりゃそうだよ、私の頃はそれは負けまくってたからね……」
「小父さんが悪いんじゃねぇだろ、悪ぃのは逃げ出したナイト・クルーだぜ」
「アンタだって同じじゃない、二言目にはSSBはやらないの一点張りだったくせに」
「む、昔の事だろうが……」
シンジはジュースを飲み干した。するとシンジは1つ思い出した事があった。
「ビアンカさん。約束覚えてますか?」
「約束?」
「ホラ、オレが大きくなってナイト・クルーになったら……」
「えっ?」
レナは肩をビクつかせた。
片やビアンカは目を細めるとやがて思い出した。
「ああ…… あの事?」
正直今まで忘れていたのだったがシンジが子供の頃にナイト・クルーになると言った時に交わした約束があった。
それはビアンカは有名なナイト・デザイナーとなりシンジが乗るナイトを作ると言う事だった。
「どうかしたんスか?」
「あ、何でもないわ。勿論覚えてるわよ」
「?」
シンジ達はビアンカの様子がおかしいのに気付いた。
パーティが終了して数時間後、ビアンカは1人ドックにやって来た。手には古びたスケッチブックを持っていた。
「あれ、ビアンカさん?」
するとそこへやって来たのはレナだった。