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抜き打ちゲーム(4/10編集)

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「って何だ、混ぜっ返すな! ったく、今のどこに食いつく要素があったんだ……こら、いつまで笑っている?」

 確かに隣は空いていたんだが、しかしおかしいじゃないか。一両きりとはいえ、乗客はクロードしか居ないのだ、許可を取る必要がどこにある。

「空いていますが、他の席だって空いていますよ」

 そう返したら、彼女は笑って言った。

「もうどの席も埋まっていましてよ、皆さん楽しそうにお喋りなさってるのが聞こえるでしょう!」

 彼女の言う通りだった。反響して聞き取り辛くはあったが、結構な数の人間が喋っている声が聞こえた。彼女は、他の乗客達は、一体いつ乗車したのだろう。
 彼女は、もう一度隣に座って良いかどうか尋ねてきた。空いてないなら仕方がない、彼女は俺の隣に座った。

「ん? 何で拗ねているんだ、……お前が彼女と会ったら……いや、止めておこう」

 さして特徴は無い外見だったと思う。全体的に綺麗な印象は受けたが、それだけだ。茶髪に青い瞳で、髪は少し癖があったな。

「スタイル? 何でそんなことが気になるんだ……」

 華奢な女性だった。白のブラウスに水色のロングスカートというありきたりな格好だ。
 そう言えば、綺麗な声をしていた気がする。聞き心地の良い音というのか。
 彼女はいろいろ話しかけてきた。とりとめもない話だ。
 どこの街のどこの喫茶店のケーキセットが美味い、でもコーヒーだけならあそこが一番、服を買うならどこそこ、だれそれの本が好き、歌手ならあの人……楽しくはあった。いろいろな疑問を忘れるくらいに。
 何しろ、一つ聞けば十でも二十でも話題が出てくるのだから。
 ただ、一つだけ話したがらないことがあった。彼女の話題の大半は川近くの街についてだったから、その辺りに住んでいるのか、或いはその辺りが好きなのか……そう尋ねただけだ。何てことない質問だろう。
 彼女は困ったように笑ってごまかした、だがクロードには彼女が一瞬顔を顰めたのが判った。まるで、取り返しのつかないことをしでかしたみたいに……。
 会話が途切れ、しばし沈黙が降りた。
 ……そして、ふとクロードはいつ電車が駅に着くのかが急に気になりだした。
 同時に、彼女や他の乗客達はいつ乗車したのかも不審に思った。
 果たして、彼女以外の乗客は実在しているのだろうか。そう疑ったクロードは彼女に伝えた。

「車掌に聞きたいことがあるので少し席を外しますね」

 だが彼女は何も返事をしない。クロードは構わずに立ち上がった。ずっと同じ体勢で座っていたからか、やけに身体が重かった。
 彼女は呟いた。

「賭けに勝ったのは君が初めて……」

 何のことか訊いたが、笑って答えない。

「お喋りに夢中になりすぎるのはいけないね――」

 そう言うだけだった。

「……一目惚れされた? まさかな」

 そして、クロードは当初降りる予定の駅に一時間早く降り立ったというわけだ。