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舞うが如く 第四章 10~12

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 苦笑いの作蔵が、
肩に担いだ槍を、どんと地面につきたてました。


 「いやいや、これは相手が悪い。
 刀を納めろ、お前たち。
 お前たちが、束になっても勝てるお方ではない、
 法神流免許皆伝の女天狗が相手では、
 命がいくつあっても足らぬわい、
 今日は、まことに日が悪い。」


 「物わかりが早いこと、
 さすがに我が兄弟子の、作蔵さまです。」



 「会津まで行くと申したな。
 此処で出会ったのも多少の縁なら、
 足尾の国境までは、我らが警護をいたそう。
 京での、よもやま話などを聴かせてもらいながら、
 山道を歩くといたそうぞ。」



 「願ってもない。
 しかし、それにしても、
 作蔵さまよりも怖い野盗が
 この山中に居るとは、とうてい思えませぬが・・・」



 「一度惚れたら、
 守りぬくのも男の仕事であろう。
 剣ではとても、足元にもおよばばなかったが、
 性根で負けるわけにはいくまい。
 おなごを守るというのは、
 男子の仕事のひとつにある。」



 「一理ありまする。
 ということは、すでに
 妻女はめとられたのですか」



 「いまでも、お主に一筋だ。」


 「これはまた・・・
 では、もう一度、
 お手合わせいたしまするか?」



 「滅相も無い。
 おぬしも人が悪い。
 だがしかし、おぬしを守るためならこの作蔵、
 わが命をかけても良いと思っておる。
 そのくらいの器量なら、いつでも持ちあわせておるぞ。」



 「またずいぶんと、嬉しいことを・・・」



 「それにしても、琴。
 京で磨かれただけあって、
 ずいぶんと美形になったものだ。
 何人ほど、
 男を手玉にとってまいった」



 「知りませぬ。」



 最前の若侍が、息を切らしながら、
早足にすすむ、琴と作蔵にようやくに追い付いてきました。
にこやかに振り返った琴が、若侍に語りかけました。



 「命拾いなされましたね、
 この作蔵さまは、法神流の当代一の使い手ですよ。
 居合抜きにかけては、右に出るお方がありません。
 ただし、少々素行が悪すぎるために、師匠が免許皆伝をくれません。
 ゆえに、やけを起こされまして、
 わたしと立ちあった後に、いずこともなく姿を消されたお方です。
 居合い抜きの達人ゆえ、ゆめゆめ至近距離などには入りませぬように、
 琴も立ちあうときは、
 薙刀しか、用いませぬ。」



 この男、作蔵は、琴に薙刀をもたせて立ち合わせた、
唯一の使い手でした。
兄の良之助と並び称された剣客でしたが、持って生まれた自由奔放ぶりが災いをして、
遂に免許皆伝には至らず、法神流を去った一人です。
しかし、実力だけでいえば剣客揃いの法神流の中でも、傑出した剣士として、
歴代の三本の指にも入るという、凄腕の一人です。