舞うが如く 第四章 7~9
舞うが如く 第四章
(9)沖田の愛刀
会津への旅発ちの支度に追われる琴のもとへ、
細身の太刀をたずさえた沖田が現れました。
「忙しい様子ですが、
見納めに、すこし散策をいたしませぬか。
お誘いにまいりました。」
思いがけない沖田の言葉に、琴が手を停め、思わず頬を染めます。
いそいそと、沖田の背中に続いて琴があるきます。
西本願寺の境内を抜けると、堀川通りへ出ました。
突き当たりから東へと向かい、加茂川あたりををめざします。
「琴さんには、
ずいぶんとお世話になったものの、
なにひとつ、お返しできぬうちに
早、お別れの時になってしまいました。
これは我が愛刀のひとつ、菊一文字則宗です。
細身ゆえ、おなごにもあやつれる優れものです。
我が、形見と思い、
琴さんにお持ち願いたい。」
「菊一文字は、
古今に名を残す、名刀のひとつと伺いました。
琴などにはもったいなく、
とても拝領するわけにはいきませぬ。」
「案ずることはない。
実戦では、一度として用いておらぬ。
我が守り刀ではあるが・・・
もう、2度と抜くことも無いであろう。」
そう言うと、
細身の菊一文字を、琴の手もとへ押しやりました。
加茂川の土手には、早くも夕暮れの柔らかい黄色い日が射してきました。
家路を辿る鳥たちが、遠くの杜へ急ぎます。
作品名:舞うが如く 第四章 7~9 作家名:落合順平