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舞うが如く 第四章 7~9

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 座敷の中央に、布団が用意されました。
水杯の膳の準備が整います。
山南は布団のうえに正座をすると、
羽織をはだけて、静かに盃を口元へと運びます。



 「詩衛館以来、
 近藤局長をはじめ、副長の土方さん、斎藤さん、
 長々と、大変にお世話になりました。
 我が身の不徳ゆえに、不本意なお別れと相なりましたが、
 これもひとえに、小生の未熟がゆえの
 末路と存じます。
 長年のお心尽くしに、山南敬助、
 こころより、あらためて御礼を申し上げます。」



 入れ替わりに、山南の前に座る幹部たちと、
それぞれに水盃をかわします。
ひとりひとりに短い感謝の言葉を残しましたが、
やがて、最後に総司が座りました。



 「山南さん、
 弟のように面倒を見ていただき、
 総司、ご恩だけは
 一生涯わすれません。」


 「俺の方がかえって、
 お前を煩わせてしまったようである。
 総司、介錯を頼む。
 ただし、俺が声をかけるまで、刀は下ろさないでくれ。
 散り際は、俺が決める。」


 ひととおりの水盃が済んで
山南が上半身をはだけて、
後ろにひかえた総司を、見上げました。



 「総司、
 命は、無駄にするでないぞ、
 わしは先にまいるが、
 お前は、わしの分まで生きてくれ。」



 正面を向きなおした山南が、近藤を見上げました。



 「長らくお待たせいたしました。
 これより、山南敬助、新撰組の掟通り、
 相果ててごらんにいれまする。
 長らく、お世話になりました」



 
 おもむろに小刀を取り上げます。
それを下腹へズブリと刺すと、
真一文字に引き回し、呻く声も出さずに
静かにゆっくりと、前方へと突っ伏しました。



 その、あまりもの見事さに、近藤も、
「浅野内匠頭でも、こう見事にはあい果てまい」
と賞賛しました。
遺骸は、神葬で壬生寺に手厚く葬むられました。