舞うが如く 第四章 4~6
山南の横に並んだまま、
同じように総司も、川面の流れを見つめます。
無言のまま、二人の間に時間だけが流れました。
やがて沖田が、琴を振り返りました
「琴殿。
私と山南さんは、このまま戻って
大津にて、宿をとりたいと思います。
一つだけ、願いが有る故、
一肌脱いでいただきたいのですが。」
総司が戻ってきて、
琴に寄り添うように立ちました
耳の近くに口を寄せて、ささやくかのように、
胸に秘めた思いを言葉にかえました。
「この足にて、
島原まで参り、明里さんを、
今宵のうちに大津の宿までお連れ願いたいのです。
つらいお役目になりまするが、
お願いできますか。」
「承知。」
「刻限はいといません。
なん時であれ、是非にとお連れください。
山南さんは、すでに覚悟を決めた様子にございます。
猶予が有るとすれば、今宵の一夜だけです。
それで、精一杯になるでしょう。
恐らくは、今生の別れとも相なるでしょう。
間にあうといいのですが・・・
おなごにしか解らぬ思いも、
きっとあるはず。」
「必ず。」
すべてを察知した琴が、
急ぎ足で来た道を引き返しました
一方で、沖田と山南は草津宿へと戻り、宿をとりました。
午後を回ったばかりの早い時刻ですが、
沖田の懸念はただ一つでした。
半日余りの道のりを、女二人の足で、今宵のうちに
戻ってこれるかどうかだけが、気がかりなのです。
作品名:舞うが如く 第四章 4~6 作家名:落合順平