舞うが如く 第四章 4~6
新撰組の内部に居所を無くした山南には、
もう、帰るべき場所は残っていません。
追手が沖田と知った瞬間からもう、覚悟のすべても決めたようでした。
二人は静かに夕食を済ませ、無言のままに酒を酌み交わします。
その夜半過ぎに、明里と琴が到着しました。
立ちあがった沖田が、琴の背中を押して階下へと降ります。
疲れ切った様子の琴が、
用意されたもうひとつの部屋で崩れ落ちました。
「大儀でありました。
おなごの足に、身に過ぎるご無理をお願いたしました。
総司、一生がい、感謝いたしまする。」
「幼いころより鍛えていますゆえ、
足はなんともありませぬ。
それよりも、法度とはいえむごすぎる決まりに、
なんとも、胸が痛みまする。」
「連れて帰れば、
おそらくに切腹の処置で有りましょう。
無用な争いや、いざこざを避けたいがゆえに、
私が追手に使わされたのだと思います。
私もつらいが、近藤さんや歳さんも、
明日には、もっとつらい決断をくだすことになるでしょう。
間にあって、それだけが本当によかった、
感謝にたえませぬ。」
呑むか、と沖田が茶碗になみなみと注いだ酒をさしだしました。
淵いっぱいに注がれた酒が、さざ波のように茶碗の中で揺れ始めました。
それを口元に寄せた琴が、沖田にひとつ、ぽつりと尋ねます
「どうあっても、処置は覆りませぬか?」
「万に一つも・・・」
「山南さまは、新撰組の屯所へは、
ただ、死ぬためだけに戻るのですか」
「それもまた武士道であり、
新撰組隊士としての、定めだ。」
「定め・・・」
揺れる茶碗の中に琴の涙が落ちました。
波紋がひとつ、ゆっくりとひろがります。
作品名:舞うが如く 第四章 4~6 作家名:落合順平