舞うが如く 第四章 4~6
その数日後のことです。
壬生の屯所が、未明から騒然としはじめました。
至急に集められた隊士たち二〇数名が、鎖帷子(くさりかたびら)に
身を固めて、それぞれの槍の穂先からは、
いつもの覆いが外されて、鈍い光が放たれていました。
近藤の指図の元、その一団が表門から走りだそうとした矢先のことです。
騒ぎを聴きつけて八木邸から現れた土方が、それを一旦制止しました。
近藤に耳打ちをした土方が、武装した隊士たちに合図を送って、
再び屋敷内へと戻しました。
その少しの後、至急にてと
総司と琴が、近藤に呼びだされました。
奥座敷には近藤と土方の二人の姿しか見えず、
警護役の隊士までが遠ざけられている気配がしました。
「事は内密を要する。
他でもない、局長の山南敬助がこの手紙を残して
脱走をいたした。
大人数で探索に当たれば、衆目に新撰組の恥をさらすこととなる。
両名にて、山南を連れ戻してほしいのだが。」
「連れ戻した後は?」
「法度に、例外はない。
いつもどおりの処分となるであろう、
辛い役目ではあるが、兄とも慕っておるお前が行けば、
無用な血を流さずとも済むであろう。」
「万が一にして、抵抗いたした場合には?」
「すべては、総司の一存にまかせる。
随意にするがよい。
だが、わしも土方も、
出来るならば、もう一目会いたいと思っておる。」
「承知。」
一礼をして沖田と琴が退座をします。
土方は、無言で腕組みをしたまま、その二人の姿を見送りました。
元治2年(1865)2月22日、凍てつくような北風が吹き抜ける、
京都の寒い夜明けのことでした。
作品名:舞うが如く 第四章 4~6 作家名:落合順平