舞うが如く 第四章 4~6
舞うが如く 第四章
(5)追手は沖田と、琴
壬生・八木邸の
奥廊下を通りかかった総司が
室内の口論の様子に思わず立ち停まりました。
声を荒げる、土方の様子が気にかかったためです。
隊士たちの増加に伴い、
壬生の屯所が手狭になったために、
西本願寺への移転を、土方が近藤に提案をしていました。
「西本願寺は長州との関係が深いから、
その監視の意味合いもある。
現に、禁門の変の際には、西本願寺では長州藩士を匿い、
ほとぼりが冷めた頃に、頭を剃って僧体にして逃がしていたと聞く。
ここを屯所にすることは、長州を覗うためにも、
一石二鳥であろう、
どうだ、近藤。」
近藤も土方に同調したようです。
しかし山南の、おだやかに諭す声がそれに続きました。
「寺社は、世俗とは離れた聖域な領域である。
そこへ我々のような、日々、斬った殺したとやっている集団が
移り住むのは神仏への冒涜にもあたる。
近藤さん、屯所移転を名目にして僧侶たちを脅かして、
陰に長州の動静を探るのは、やり方としても少々卑劣すぎましょう。
屯所なら、西本願寺以外にいくらでも行くところはあるでしょう」
めずらしく、最後のほうで山南も声を荒げました。
近頃では近藤と土方が新撰組の専制支配の中心となり、
なにかにつけて方針や決定がなされるために、
山南は、形ばかりの局長職という色合いが濃くなっていたのです。
話し合いは平行線のまま続きました。
やがてこれ以上は時間の無駄と、山南が憤然と席を立ちます。
その山南の気配を察知した沖田がその場を離れました。
障子を開け放した山南が板を鳴らして、沖田とは反対方向に立ち去ります。
懐手の土方がその様子を見送ると、沖田に一つうなずいてから
静かに障子を閉めました。
作品名:舞うが如く 第四章 4~6 作家名:落合順平