充溢 第一部 第二十四話
第24話・2/3
母のノートを取りに工房へ向かった。
扉の鍵を開けようとすると、ミランダが必死で呼びかけるのに気付く。
あの日の快活さを失い、哀れなほど衰弱している。この姿を見て、恋の病という言葉を連想する事が出来た。
ただ、それが何であるかという所まで、想像が及ぶ事はなかった――現象を口で言い表す事と、それを理解していると言う事は、全く違う事なのだ。自らの臓腑に落ち着いた理解というものが本当の理解と言える。
それが超理解的である事だけは"理解"出来たので、早速部屋の中に引き込み、茶を飲ませて落ち着かせる。
「何があるか分からないから、自分の家で休んでいなさいって言われませんでした?」
と詰問するも、俯いて首を振るばかり。愛しさだろうか? 後悔だろうか? 責任を感じているのだろうか? それらの複合だろうけれど、そういう事を上手く解きほぐす言葉を知らない。
彼女の事が邪魔だなと考えてしまう、自分の薄情さに苛立つ。
どうしてやろうか。一つは、彼女に気の利いた言葉を贈って、上手くやったと自分だけの満足を勝ち取る方法。一つは、彼女を救わなくて良い理由を見つけ、作りだし、自分の罪悪感をキャンセルさせる方法。そして、実際に彼女を回復させる事だ。
最後の言葉は強く戒めよう。ポーシャに言われたとおり、自分の余り物を与える程度で人が救えるなどと自惚れないことだ。
さて困る。その他に取り得る状態がない。ないのか?
作品名:充溢 第一部 第二十四話 作家名: