充溢 第一部 第二十四話
第24話・3/3
ミランダはネリッサの部屋で静かに寝ている。
彼女の部屋は不思議なほどシンプルだった。生活感はあるのに、調度品は最低限のものが置いてあるだけだ。かと言って、私服やアクセサリーはしっかり用意されているので、自分に対し無頓着であるようにも見えない。
他のメイドには散々叱られたが、選択肢は他になかった。自分の言葉に彼女を癒す成分など微塵も含まれていないのは明白なのだから。
これで、心置きなく暗号解読に向かうことが出来る――それでもやはり薄情かな? やったことと言えば、泣き喚く子供にお菓子を与えてやったのと同じなのだから。
ノートを開く。似たような箇所を探す。図表のキャプションから、結びの言葉や枕詞、母の書きそうな言葉……当てはめられそうな所を当てはめ、各々の文字の距離を数える。
辛抱強く数字を拾っていく。何百という断片が出来上がる。断片をカードにして並べる――その数列を眺めて、パズルのようにつなぎ合わせる。21,3,5,6,8,7と6,8,7,0,9,2を見つければ、21,3,5,6,8,7,0,9,2になるように。
次に、この組み合わせの強度を測る。5,6,8,7,0みたいな断片が見つかれば、それだけ先の数列は確からしさが増える。
マンパワーの問題だ。屋敷にいる者全てを動員した。運悪く顔を出したアントーニオも、伝令に来た騎士も全て引き込んでやった。
哀れな商人は叫んだ。
「お前はすっかり暗黒面に堕ちてしまったな」
作品名:充溢 第一部 第二十四話 作家名: