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ゴーストライター
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novelistID. 34120
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トラストストーリー

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自分のことを棚に上げて志穂は自分の連れてきた部下二人に巡回を続けさせる。もちろん、嫌と言えるはずもない。それが上司と部下の関係というものなのだ。
「「御意」」
了承の言葉を告げると志穂の連れてきた二人の部下は祭りで盛り上がっている雑踏の中へと消えて行った。
「これでよかったか?」
「そうですね。なにせ、機密情報ですから。あの二人には申し訳ありませんが」
「な~に、後で私がちょっと体を貸してやれば一発だよ」
「・・・」
「・・・冗談だから、本気にするなよ」
二人は雑踏の中、飲み屋を探しながら歩く。その飲み屋はすぐに見つかり、豪快な志穂が好むような店だった。
店内には祭りということもあってか真昼間であるにもかかわらず数十名の男たちが互いに酒を飲み合っていた。そのためなのか、周囲には酒瓶がいくつも転がっている。
二人は店内の空いている一番奥へと座り、志穂は酒とおつまみを、遥斗は未だに未成年であるため、旧文明時代に開発されていたノンアルコールの酒をこの時代技術で作ったものを注文した。
店内も男たちの盛り上がりがあるため、盗聴されるようなことはないだろう。
ある程度、周囲を見渡した二人は注文した物がすべて届ききってから話を始めた。
「それで、どんな話だったんだ?」
「まぁ、一言で言うのなら・・・宣戦布告の文書が届いたってところですかね」
だいぶ端折った説明ではあったが、瑛里華と遥斗の会話を突き詰めれば、確かに宣戦布告へと導かれることになる。
説明としては不十分だが、説明としては間違っていないということだ。
「――――なるほど。けれど、それでは私がわざわざ北鋪野から呼び戻された理由が分からないが?」
志穂が首を傾げる。会話に出て来た北鋪野というのはこの国、高天原の城塞都市の一つである。ルード皇国との国境にある都市で国境を護るため建造された都市だ。
この国で志穂は護りに充てるのならこれ以上の人材は他に居ない、とまで称される将軍で、実際、護ることに関しては同じ将軍である遥斗では足元にも及ばないほどの実力者である。
それほど護りに長けた人物が国境にある城塞都市からこの王都に呼び戻された。この理由を語るには先ほどの遥斗の説明では不十分だろう。
(どこまで話していいんだ?)
志穂が呼び戻された理由を説明するには、今までこの王都を護ってきた遥斗がこの都市を離れることを説明しなければならない。だが、そうすると今度はなぜ、この都市を離れなければならなくなるのか、という説明が必要で、最終的に、瑛里華の妹や先遣隊を潰すことなども一緒に説明しなければならなくなるのだ。
どこまで話していいかわからず云々と唸る遥斗を志穂は黙って見続ける。
(妹の話はさすがに拙いか・・・)
なにせ宣戦布告されて戦力の配置や増強などに忙しいこの時期に戦力の一旦を担っている将軍の一人を妹のために削ごうというのだ。
それはつまり瑛里華にとって弱点になる可能性が高いということに他ならない。それを同じ国の将軍とはいえ安易に漏らすことは躊躇われる。
必然的に話せることはかなり限られてくる。当たり障りのないところを選んで遥斗は話し始める。
「ちょっと野暮用で・・・俺がこの都市を離れることになったんです」
「野暮用?お前がこの都市を離れなければならないほどの野暮用なのか?」
「そうですね・・・端的に言うのなら・・・」
遥斗は勿体ぶりながら、あるいは、余計なことを口走らないように注意しながら慎重に口を開いた。


「―――――護らなければならない人がそこにいるからです」


その言葉は確かに間違っていない。意味的にもおかしくはない。けれど、確かに違っていた。何が明確に違うのかは分からないが、こう言うしか遥斗には方法がなかったのだ。
言ってから、志穂はまるで時間が止まってしまったかのように動かなかった。あるいは本当に時間が止まってしまったのではないかと錯覚してしまうほどに。
「ふ・・・ふははは」
それは飲み屋で騒いでいた男たち声を凌ぐほど大きな笑い声だった。志穂はしばらくの間ずっと笑い続け、そして、手に持っていた酒の入ったグラスを一気に呷ると表情を引き締め、いつもの表情に戻す。
「なるほどな。いつの間にか一端の男になったな、遥斗」
「何でそんなに自分が年をとっているような口調なんですか?志穂さんだってまだ二十歳じゃないですか」
遥斗が十七歳なので三歳しか年齢は変わらないはずなのだが、遥斗に話しかける口調はまるで若者を見る老人のようなものだった。
「女は二十を超えて男がいないとすぐに老化するんだ。知らないのか?」
「知りませんよ・・・。それよりも俺がいない間、この都市のこと、お願いしますね」
「ははは。誰に物を言っているんだ。私は護ることに関して、誰も右に出る者はいないと思っているぞ」
「まぁ・・・それは分かってるんですが・・・なんかこう・・・嫌な予感がするんですよ」
「嫌な予感?」
志穂が怪訝な目つきで遥斗を見返す。
「・・・まぁ、ただの予感ですからね」
遥斗は何事もなかったかのように笑みを浮かべる。だが、遥斗が笑みを浮かべても志穂は先ほどの言葉が気にかかるのか、遥斗のことを凝視していた。
「ど、どうかしたんですか?」
「・・・お前の耳に入っているかどうかは知らないが・・・北鋪野にいた時、内通者がいたんだ」
「・・・内通者・・・ですか」
「そうだ。都市の内情を流出させようとしていた・・・もちろん、阻止したが・・・」
志穂が苦虫を噛み潰したような表情でもう何度目かわからない酒を呷る。おそらくは悲しいのだろう。
なにせ同じ国の者が自分の生まれ育った国を敵国へ売ろうとしていたということなのだから。
「それで、どこの国と繋がっていたんですか?」
「・・・バルド皇国だ」
「なるほど・・・バルド皇国・・・」
バルド皇国と言えば先ほどの瑛里華の話に出て来た高天原に宣戦布告をして来た国だ。元々多民族が集まってできた国であることもあってか、最近まで国の統治者すらいなかった国なのだが、統治者が現れた途端に戦争を仕掛けて来るとは何とも血気盛んな人物であるようだ。
「そういえば、バルド皇国は一体、誰が統治したんでしょうかね」
統治者が現れたのは本当につい最近でそれまでは国を建国しながら民族同士の内乱が国の各地で頻繁に起こっていた治安の悪い国と言える。その国の統治者ということはやはりかなりの手練れなのだろうが、一切、国際の場に姿を現したことがないため、おそらくは顔を知っている人の方が少ないだろう。
「さて、な。私が敵国の内情をしっているはずがない。私に聞くのだったら殿下に聞いた方がまだ可能性があるだろうな」
「確かに。そうでしたね」
志穂が苦笑し、二人の間に少し緩やかな空気が流れた。
「それにしても・・・ちびっ子の晴れ舞台の日に出ていくことになるとはな・・・運命とは残酷だな」