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ゴーストライター
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novelistID. 34120
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トラストストーリー

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その速度は尋常ではなかった。おそらく、この国内でも上位に食い込み程の速度であることは間違いない。
それに気が付いた遥斗も応戦の構えを見せる。
そして、二人が互いに接触した瞬間、瑛里華が叫んだ。
「――――止めなさいっ!」
瑛里華の声にピタリと遥斗の手が止まる。
二人が互いに接触した瞬間に、勝負はついていたのだ。
弾かれたナイフが地面に転がり、首に刀を宛がわれている愛野。完全に敗者の図である。
後一ミリでも遥斗が刀を動かせば、確実に首から血が流れるだろう。
立ち上がろうにも首に刀を宛がわれ、武器を使おうにも遥斗の鋭い目つきで細かな動きすべてが見られている。
もし、瑛里華の言葉が一瞬でも遅ければ間違いなく愛野の首は飛んでいただろう。
これが、これこそが、将軍の強さである。
確かに愛野も執事の割に素早い動きではあった。しかし、それはあくまでも一般的な観点から見てである。隊長や将軍とまで呼ばれるレベルにまで達している人間からすれば、それは所詮、雑魚なのである。
「愛野さん。確かにあなたは強い。でもそれは一般的な秤で見ればの話だ。俺たちのような常識から外れた連中の秤からすれば、あんたは秤に乗ることもできないよ」
「くっ・・・」
今にも飛び掛かりそうな形相で遥斗を睨む。しかし、それをさせないのは瑛里華だ。
「遥斗。あなたは先ほどこの国を戦火に巻き込むのか、とおっしゃいましたね?」
「・・・えぇ。この国は宣戦布告されていないはず・・・それなのに、どうして自ら戦火の中へ踏み込むのか、といいました」
遥斗の言葉にしばらく考える素振りを見せる瑛里華。そして、幾秒か後に瑛里華は決心したような目つきで遥斗へ瞳を向ける。
それは確かに、気高き者がもつ、瞳だった。
「この国も、宣戦布告を受けているのですよ」
「――――なっ・・・本当ですか?」
遥斗の問いかけに静かに頷く瑛里華。この事実にさすがの遥斗も驚きを隠せなかった。
「宣戦布告してきたのはル・バルド皇国です。おそらくは我が国の交易都市が欲しかったのでしょうね。なにせ、この大陸でも我が国は小国ながら交易国として知られております。国内には大陸最大級の湾もあります・・・狙うにはちょうどよかったのでしょう」
「・・・宣戦布告されているこのタイミングでなぜ?」
「遥斗。あなたがこの王都を護る最大の防壁であることは百も承知。しかし、戦争の口火を切るのは一週間後ということでした。この一週間を逃せば我々は戦火へと巻き込まれ、あなたを送り込むことが出来なくなります。このタイミングしかないのです」
「・・・本当にあなたは身勝手だ」
「―――遥斗。確かにこれは私の身勝手です。王としてあるまじき行動をあなたにさせようとしているのは分かっています。ですので、強制は致しません。今からでも拒否なさって結構です」
「いいえ、私がやりましょう」
「え?」
先ほどまであれほど瑛里華には王の資格がない、などいうような発言をしていたにも関わらず受けると言い切った。
これにはさすがの王である瑛里華も驚いた表情を見せる。が、それも一瞬、次には疑いの眼を向けていた。
「どういう心変わりですか?」
「心変わり・・・ね。残念ながら殿下は何か、勘違いしていらっしゃる」
「勘違い?」
「えぇ。私は何も受けない、とは一言も言っておりません。ただ、身勝手な理由で国を危険に晒そうとしている割に、真実を話さず、お覚悟を決めておられなかったので、話の真実とお覚悟を決めて戴きたかっただけです」
「・・・なるほど、さすがに外交上手と言われるだけのことはありますね。駆け引きが上手ですこと」
「さて、ね。では、今夜、発つことにしましょう」
遥斗はそれだけ言い残して作戦の間から出ていく。後に残されたのは愛野と瑛里華の二人だけだ。
「・・・本当によろしかったのですか、あのようなことを言ってしまって。もし遥斗君が口を滑らせでもしたら、本当に面倒なことに・・・」
「大丈夫でしょう。彼はああ見えてこの国を愛してくれているようです」
姿の見えなくなった遥斗の背中でも見る様に瑛里華はすっと微笑む。
「本当にそうでしょうか。僕には殿下を愚弄していたようにしか思えませんでしたが・・・」
「それも、この国を愛しているからこそ、ですよ。この国の行く末を案じて下さっているのでしょう」
「・・・だといいのですがね」


作戦の間から出て来た遥斗を待っていたのは背の小さいまだ小学生ほど女の子だった。
少女はウェーブがかった長く赤い髪で綺麗な緑の双眸を遥斗に向けていた。
「遥斗っ!」
少女は作戦の間から出て来た遥斗に勢いよく抱きつく。突如、抱きつかれた遥斗ではあったが、そこはさすが将軍というべきか、すぐに体勢を整えて抱きついてきた少女を優しく抱き留めた。
「椎名様。どうかなされましたか」
遥斗に抱きついてきた少女こそ、この国の王である瑛里華の三女、葦原宮椎名である。三女ということで未だ十二歳と幼齢ではあるが、いずれはこの国を背負って立つ可能性がある人物である。
「嫌だよ!遥斗がいなくなるのは嫌っ!」
椎名はただそういって涙を流し、遥斗に抱きついたまま断固として動こうとしなかった。今夜に発つための準備をしなければならない遥斗はすぐにでも準備に取り掛かりたかったのだが、この国の三女という自分の仕えている主の娘を無下にできるはずもない。
「あのな・・・少しの間だけじゃないか・・・というよりもその話をどこで聞いたんだ?」
先ほどまでの話を聞いていた人物でなければ遥斗が旅立つということを知っている人物はいないはず。それなのにすでに椎名が知っているということはおかしい。
「柚希に聞いた。柚希がもしかしたら、遥斗がいなくなるかもって・・・そんなこと、私、嫌だもん!」
(・・・柚希の奴・・・余計なことを・・・)
確かに遥斗は柚希に誤って作戦の間へ行くことを話してしまった。作戦の間は緊急時にしか使われず、そこへ遊撃部隊の全指揮権を持つ遥斗が召集されたとなれば、遥斗がどこかへ行くことになる可能性があるのは容易に推測できることだ。おそらくはそのことを椎名に話したのだろう。
「大丈夫ですよ、椎名様。すぐに戻って参ります」
「嫌っ!だって遥斗が行くってことは危ないんでしょ!だったら行かないで!それに・・・それに今日は・・・」
「今日は?」
「と、とにかく行かないで!遥斗!」
どれほど安心するよう言葉を投げかけようとも椎名は遥斗から離れようとしない。さすがにこれ以上、時間を失えば今夜の出立に間に合わなくなる可能性もある。
(・・・力づくしか・・・ないのか?)
そう考えた時、遥斗の視界にある人物が映り込んだ。
「桜花さん!」
遥斗が助けを求めたのは遥斗と同じ、高天原の将軍の一人、猪原桜花である。名前に違わぬスレンダーな黒髪の美しい女性である桜花だが、戦時の獰猛さは世界中にも知れ渡っているほどで“高天原五将軍”の一人に数えられるほどの将軍である。
桜花は遥斗の呼び声に気付くと二人の方へ近づいていく。
「どうした、遥斗殿?」
殿とは何とも古風な口調だが、遥斗は気にした様子はない。おそらくは彼女にとってこれが普通なのだろう。
「それが・・・」