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ゴーストライター
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novelistID. 34120
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トラストストーリー

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「・・・堕ちた、ということはないでしょうが、先ほど救援要請が来たのは確かです。けれど、無視できるはずもありません。大東亜帝国は我が高天原とは同盟関係にある国なのですから」
「それは私に・・・行け、と?魔物と・・・戦え、と?」
「いいえ。あなたを呼んだのは別の理由です」
「別の?」
すると、瑛里華は愛野へ頷き、愛野はずっと手に持っていた紙を数枚、遥斗へ渡す。
遥斗は渡された紙に素早く目を通し、そして、驚いた。
「――――宣戦布告」
そこには確かに宣戦布告と思われるような文章がずらりと並んでいる。だが、おかしな部分があった。
「しかし、これは・・・大東亜帝国に対しての宣戦布告ではないですか?」
遥斗たちが仕えている国は『高天原』宣戦布告されたのは『大東亜帝国』である。
では、なぜ、宣戦布告の文面がこの高天原にあるのか。
そして、なぜ、瑛里華はそれを遥斗に見せたのか、それが分からなかった。
「大東亜帝国に宣戦布告したのは最近勢力を拡大しているルディオス軍国です。今でこそ大東亜帝国が魔物とルディオス軍国の防波堤となってくれていますが、もし、大東亜帝国が敗れれば、次に標的となるのは間違いなく、我が国、高天原となるでしょう」
瑛里華の言う通り、大東亜帝国が敗れればその国と隣接している高天原が狙われるのは道理。いや、むしろ、なぜ、先に高天原を狙わなかったのかが理解できないくらいだ。
何も大東亜帝国のみがルディオス軍国に隣接しているわけではなく、高天原も隣接しているのだ。先に巨大国家と挑むよりも小規模国家である高天原を攻めた方が今後も有利に戦えるはず。にもかかわらず、ルディオス軍国は先に大東亜帝国へ宣戦布告した。
理由は分からないが、取り敢えず、今のところ、狙われる心配はなくなった、ということになる。
(だが、狙われれば・・・)
「一溜りもありません」
まるで遥斗の考えを読んだように先にその考えを口に出す。
「大東亜帝国は我が国よりも数十倍の国土と戦力を有している巨大国家です。その国が敗れた相手に我が小国が敵う筈もありません」
「・・・降伏するおつもりですか?」
「・・・噂によれば・・・ルディオス軍国は戦力増強のために支配した国から強制的に徴兵を行い、敗戦国の民を奴隷として扱い、果てには人身売買まで行っているとか」
「・・・結局のところ、殿下は私に何をさせたいのですか?大東亜帝国の救援ですか、それとも、魔物の討伐ですか?」
遥斗の問いかけに瑛里華は苦笑するだけで、何も答えない。これほどまでに要領を得ない話をされては遥斗もさすがに困惑していた。
「両方です。もちろん、一人で」
「なっ・・・それは・・・」
さすがにこれは予想していなかった答えだった。遥斗は思わず瑛里華が正気なのかを疑ってしまう。その行為はつまり、宣戦布告もされていない高天原を戦争に巻き込むということ。それは、王として正しい選択なのだろうか。
だから、臣下として普通は諌めるか、あるいは、咎めるべきなのだろう。
しかし、遥斗はそうしなかった。すべて、すべてを理解した上で遥斗はただ一言、瑛里華に尋ねた。

「――――本気ですか?」

「――――もちろんです」

もう何度目になるか分からない静寂。だが、今回の静寂は今までのものとは比べ物にならないほど長く重い静寂。そして、その静寂を破る人物も瑛里華ではなく、遥斗だった。
「――――分かりました」
「出発は今夜。先遣隊はおそらく大東亜帝国へ最短で到達するためにこの森を抜けようとするはず。そこで待ち伏せてください」
「相手がその進路を取らなかった場合はこちらで勝手に判断し、行動してもよろしいのですか?」
「いえ、相手は必ずこの進路を取るはずです。大東亜帝国の要所とされる都市へ行くにはこの森を抜けることが最短ルートなのです」
森から抜けたすぐ先にある都市は大東亜帝国の中でも最も大きな鉱山を抱えている都市として名を馳せている都市である。
(なるほど・・・大国と戦うに当たってはまず、敵の供給源を叩く、か。戦略としては間違ってない。だが、戦術としては間違ってる)
森を抜ける、ということはそう簡単なことではない。一人、二人なら素早い行動が可能だが、都市一つを手中に収めるほどの戦力を向かわせるとなると都市の規模によるが少なく見積もっても一万以上は必要だろう。
だが、一万以上の兵士たちを行動させるとなると、その速度は鈍重にならざるを得ない。さらに言えば、地形は森。適切な陣形も取りにくい。極めつけは待ち伏せのし易さにある。
森の中であるのならいくらでもブービートラップを仕掛けることが可能だ。そして、見つかりにくいという利点もある。
だから、戦略的に見ればこの作戦の目標は正しい。だが、本当にこの森を突っ切ろうというのなら戦術的に間違っているということになる。
「なぜ、そうまで、確信しているのでしょうか。なにか、ここにあるのですか?この都市に、あるいは、この森に」
「っ・・・」
遥斗の問いかけに瑛里華の表情がわずかに曇る。
「遥斗君っ!無用な詮索は禁物だよ!」
今までじっと何も言わず静観していた愛野が遥斗と瑛里華の会話に割って入ってきた。遥斗は突然の乱入者に戸惑う。
「め、珍しいですね。愛野さんがそこまで感情を露わにするなんて」
「いくら将軍と言えども、許されないこともあるんだよ」
「――――妹よ」
愛野の後ろから瑛里華が口を開く。
「っ!殿下!それは・・・」
「いいのよ、愛野。下がりなさい」
「・・・御意」
瑛里華の言葉に従って愛野はすんなりと部屋の隅へと戻っていく。そうして再び遥斗は瑛里華と相対することとなった。
「妹・・・ですか?」
「そうです。私の腹違いの妹。まだ私が王位を継ぐ前に父が同盟の証しとして妹を大東亜帝国へ嫁がせたのです。小国である我が国が大国と手を結ぶのに代償は必要でした。でなければ、同盟は成立しなかったでしょう」
「・・・」
「・・・妹は大東亜帝国の第三王子と結婚し、娘を授かりました。今では妹は自分の娘と共にこの都市『東亜泉』に暮らしています」
「・・・」
「その二人を・・・守ってほしいのです」
「つまり、私は、殿下の身勝手な理由で命を危険に晒し、そして、殿下の身勝手な理由で国を戦争に巻き込もうとするのですか?」
「――――遥斗君っ!」
さすがに耐えられなくなったのか、今まで見せたこともないような形相と迫力で愛野が叫ぶ。
「君は殿下を愚弄する気か!?」
「そんなつもりはないですよ。ただ、王として、その決断は間違ってるんじゃないか、と思っただけですよ」
「ならばそう言えばいいじゃないか!先ほどの君の発言は明らかに殿下を愚弄していた!」
「愚弄?ご冗談を。私はただ御諫めしただけですよ。王として、本当に身勝手な理由で民を危険に晒すことが正しいのですか、とね。思わず王の資格があるのか疑問に感じてしまいまいましたよ」
ふはははは、とその言葉に付けたすように遥斗は大声で笑った。
「――――っ」
愛野はタキシードの下、腰のベルト部分に隠していた小型ナイフを取りだし、執事とは思えない、まるで狩人のような俊敏な動きで遥斗に迫る。