トラストストーリー
「悩みが減るばかりか、増える一方だと思って。他国のことも考えてると特にね」
男性に話しかける口調は柚希の時とは違ってかなり砕けたものだった。王がそれほどまでに砕けた話し方をできるということはそれなりに高い地位に就いているのか、あるいは、王の縁者、そして、旧知の仲であるか、ということになる。
「なるほど。しかし、そのような重要な他国の話は兵士の多くいるこの場では少し・・・」
「なに、いずれ知らせねばならないこと。もちろん、このような場では間違っても重要すぎる事に関しては口を滑らせることはありませんよ」
「だといいのですが・・・」
男性はこれ見よがしにため息をついた。
「あら?愛野は私が口を滑らせるとでも思っているのかしら?」
傍に控え、愛野と呼ばれた男性は細身でありながらどこか頼りがいのある雰囲気を醸し出している不思議な男性である。
「そうですね。以前、ルード皇国と同盟を結ぶ会合へ赴いた際、相手方の方たちの口車に乗せられて国の内情を暴露しようとなさったことさえなければ、信用いたしましょう」
「あ~。そんなこともあったわね。昔の話ね」
「いえ、一昨日の話でごいます」
「・・・・・」
「・・・・・」
二人の間に気まずい空気が流れる。しかし、それはこんな空気を作り出した瑛里華本人によって払拭される。
「戦争か・・・」
その言葉に愛野がピクリと眉を動かす。
「殿下・・・あまりその言葉を兵のいる場所では・・・」
「分かってるわよ。でも・・・我が国もついに・・・か」
「・・・時間の問題だっただけですよ。覚悟していたではありませんか」
「・・・そうねだったわね。愛野、後で龍波遥斗を作戦の間へ呼んでおきなさい」
「御意」
「本当に・・・悩み事は尽きないわね」
「・・・そのようですね」
二人はほぼ同時にため息をついた。