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ゴーストライター
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novelistID. 34120
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トラストストーリー

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二つの足音が蝋燭で照らされた薄暗い石の廊下に響く。
ガラスがないため、廊下の窓には木の扉が付けられているが、今日は満月と天気が良いためか、すべてが全開にされている。
そこから吹く風に揺らめく蝋燭の火と満月の光を頼りに二人が歩いてきた。
一人はまだ若く、十代後半であろう青年。もう一人は体全体を甲冑で覆っているため、見た目からでは年齢どころか性別さえも判断できない。
だが、外見から想像する明らかに青年の方が高い地位かあるいは高い役職に就いているのだろうということが分かる。
なにせ、黒と白の二色が互いを尊重し合い、見事に調和している服装に加えて、ところどころに入る青色がさらに彼の服装を豪華にそして、格好良く映えさえているからだ。
腰には二本の刀が差してあり、彼の纏う黒い外套には白で描かれた一本の刀と八本の剣。
それら九本の刀剣が綺麗な円を描き切っ先を円の中心で交差させ、その円の中心には九本の刀剣に貫かれた一つの王冠。そして、王冠以外の九本の刀剣はまるで植物の蔦に巻きつかれているように描かれている紋章が刺繍されていた。
青年の名は龍波遥斗。この国の王家に仕える重臣である。
「それで椎名様は?」
遥斗は傍に控え、甲冑を身に纏った男に厳しい口調で訊いた。
それに対して男は委縮したように体を竦める。
「そ、それが、椎名様は城下へ・・・」

「――――殺されたいのか、貴様?」

「ひぃいいっ!」
男はあまりの迫力に腰を抜かす。一歩間違えれば殺されてもおかしくないと思えるほどの迫力だった。
「すぐに探し出せ。見つかるまで帰って来るな」
「ぎょ、御意っ!」
男は叫び声同然の声を上げ、遥斗の傍から離れたい一心で廊下を駆け抜けて行った。
「・・・ったく・・・」
一人になった遥斗は全開になっている窓から満月を眺める。眼下には町の光が都市全体を覆い、町に活気があることを示していた。
その光景を眺めつつ、思わず苦笑する、
「・・・そうか。ついに椎名様も城を抜け出す年頃か」
まるで自分が年寄りのような言い方だが、おそらくは、口ぶりだけで実際は十代後半だろう。
「遥斗っ!椎名様は見つかったか!?」
遥斗一人で静かだった廊下が一気に騒々しくなる。ため息をつきながら遥斗は窓から視線を外し、騒々しい原因の人物へ向ける。
そこには腰に剣を差した一人の少女が遥斗とはまた違った装飾の服を着て立っていた。
少女の名前は遠野柚希。
金色の長い髪で青い双眸を持つ柚希の服装は外套の色や装飾については遥斗と同じなのだが、服は青と白の二色のみで仕立てられており、遥斗の服装が格好良さを強調しているのなら柚希の服装は神聖さや清廉さを強調している服装である。唯一、同じ部分を上げるのなら外套に描かれた紋章だけであろうか。
しかし、彼女の外套は白色で刺繍されている紋章は黒と、遥斗とはまったく正反対であった。
「いや、まだだ」
「えっ!?だったら、こんなところで道草食ってる場合じゃないでしょう!早く探さないと!」
「けど、場所は突き止めた。すでに人を向かわせている」
そう言うと遥斗は再び視線を城下の町へと向ける。柚希も遥斗の視線を追うようにその先にあるものを視界に捉えた。
それだけで理解したのか、柚希は深いため息をついた。
「・・・なるほど、殿下に似ないでいいところは似てしまうらしいわね」
「そのようだ。だが、なぜ、俺だったんだ?近衛(お前)の(の)連中(部隊)を使えば良かったじゃないか。俺が動かせるのは遊撃(俺の)部隊(部隊)と少数の戦闘部隊だけだぞ」
他部隊のことについて、他部隊は関与しない。それが規則であり鉄則だ。これは一つの部隊の隊長、あるいは、その全部隊を統括し、指揮する将軍に権力が集中しすぎないようするためのものである。
そのため、少数精鋭の遊撃部隊を統括している遥斗では動かせる兵の数が限られてしまっているのだ。
「わ、分かってるわよ、そんなことは!だ、けど・・アレよ!その・・・遊撃部隊は少数精鋭だから素早い動きが可能だろうとおおお思ってね!」
「何を動揺してるんだ、柚希?まさか、もう殿下に知られてしまったのか!?」
「いいいや、そ、それは心配ないよ。さっき確認したけど、もうお休みになられているようだったわ」
「そ、そうか、よかった。殿下に知られたら後が怖いからな」
遥斗は安堵した息を吐く。
「しかし、殿下のことじゃないとなると、一体、何でそんなに動揺してたんだ?」
「い、いや、ど、動揺なんてしないわよっ!」
「・・・そうだな。どうやら気のせいだったみたいだ」
どうせここで追及したところで柚希は答えないだろうと考えたのか、遥斗はそこから一切、追及すること止め、男が走り去っていった方向へと足を進める。
「ど、どこへ行く気?」
「決まってる」
遥斗は振り向くことはせず、足を止め、ちらりと横目で柚希を見るにとどめた。
「椎名様を迎えに、だ」
今度こそ足を止めることなく、柚希の視界から去って行く遥斗。その後ろ姿は傍目から見ても喜んでいるように感じられた。
一人だけ廊下に残されてしまった柚希。本来なら遥斗と共に椎名と呼ばれる人物を迎えに出なければならないのだが、それ以上に、柚希は悩むんでいることがあったのだ。
「・・・また・・・お礼を言い損ねたか」
苦笑を浮かべ、一度、窓の外の光景を一瞥してから柚希は遥斗とは反対へ去って行った。


「――――それで、この件は内密にできるとでも思ったのですか?」
質素と呼ぶにあまりにも大きく、派手な装飾の部屋。そのほとんどが石造りではあるが、それを感じさせない絨毯に、壁紙。さらに、部屋の奥、壇上に備え付けられている玉座へと続く直線には赤い絨毯が敷かれており、部屋のいたる場所に甲冑を身に纏った兵士たちが直立不動で動向を見守っている。
「――――申し訳ございません。殿下のご心労を考えればお耳入れることが憚られました」
柚希は膝を突き、頭を垂れ、許しを請う。柚希の先には玉座に座る一人の女性が足を組んで堂々と座っていた。
彼女こそ高天原と呼ばれるこの小国の王、葦原宮 瑛里華である。赤く長い髪の瑛里華は豪華絢爛な服装を身に纏い、傍には執事のような男を一人、立たせている。
「いえ。あなたが私のことを想っての行動です。素直に感謝しています。ですが、私はこの国を統べる王である前に、一人の母親なのです。自分の娘たちのことはすべて知りたいのです」
その言葉には先ほどまでの口調ではない、優しい口調で話しかけていた。瑛里華の言葉に部屋の張りつめていた空気が緩む。
「御意。これからどのようなことでも逐一御報告させて戴きます」
「えぇ。そうしてください、柚希。特にあなたは椎名を護る近衛騎士の筆頭。何かと苦労が多いでしょうが、椎名のこと、くれぐれもよろしくお願いしますよ」
「御意。必ずや、お護り致します。・・・では、まだ職務が残っておりますのでこれで」
柚希は最後にもう一度だけ頭を下げて退出してしまう。柚希が去ったことを確認してから玉座に座る瑛里華は大きなため息を漏らした。
「どうなさいました、殿下?」
傍に控えて今までの光景を静観していた執事姿で眼鏡をかけた長髪の男性が丁寧な言葉遣いと優しい口調で話しかける。