バツイチの娘。~アイデンティティモラトリアム~
障害者施設でのアルバイトと実習とひとりのライフスタイル。
夏休みは4週間の実習が待っていた。楽しみで仕方なかった。
一般の大学生ならば【夏休み】となれば、ナンパ?吞み会?海水浴?アルバイト?
をするのだろうが、あたしにとって長期休暇は実習で過ごせることが嬉しかった。
『少しでも、いや介護コースの皆よりも多くの現場での技術・感覚を身につけてきてやる』
あたしの中の【福祉】のこころが燃えていた。
ちょうどあの出来事を境に障害者の施設のアルバイトが決まった。
週2回の2時間だけ。主な内容は夕方、利用者さんの食事介助。
職員さんにもかわいがられて、いろいろ現場での苦労や楽しみをおしえてくれた。
実習は週5の月~金曜日。土日は障害者施設でのアルバイト。
どっぷり介護の世界に染まっていた。
実習が終わりかけの頃、ゼミの仲間の色恋の間に挟まれた。世間でかわいくゆうならば【恋のキューピット】とでも呼ぶのだろうか。
あたしはそういうのが大嫌いで、板挟みになるのが目に見えていた。
夏休みが明け彼らも同じ介護福祉士を目指す仲間ですべての講義が彼らと同じ。
朝、名前が呼ばれるギリギリに教室へ入ると
『めんどくさい雰囲気。あたしに気を使っているの?』
『大迷惑よ』
彼らに
『ごめん、あたしこっちの席座るから自由にやって』と云い放ち、
壁側の隅の席に座った。
『こらからここがあたしの定位置だね』
それでも介護福祉士を目指す子は、なぜか気配りができる子が多くて
『かの子ちゃん、なんかあったの?元気ないよ?』
『かの子ちゃん、昨日の講義で配られた授業のプリントだよ』
と隅の席の隣の女子たちが声をかけてくれるようになった。
前にも述べたが、あたしは来るもの拒まず、去る者追わず。
『ありがとうね』
とグループワークをしているうちに彼女らに溶け込んだ。
今はやりの【ぼっち】の先駆者はこのあたしではないだろうか。
それ以来、人目を避けるように行動するようになった。
食堂へも行かず、昼休みはアパートで過ごす。
講義と講義の空き時間は図書館で過ごす。
喫煙所は教授や事務の人が使う校舎の裏で吸う。
あたしはひとりぼっちをどこか満喫していて、どこか孤独がしっくりきた。
誰のペースにも合わせず、あたしだけで行動する。
誰かからの支配?呪縛?から解放された気がした。きっとその中に【バツイチの母】の存在もあっただろう。そして少なからず【君】の存在も。
障害者施設にはさまざまな障害を患った方がいた。
先天性・後天性...それによって育ってきたライフヒストリーが大きく変わってくるの。そしてライフストーリーも。
ある男性の方は、事故で右まひを患った。職員さんの話しによると
『こんな身体になってしまって死のうと思ったらしいよ。でもこんな身体だから死ねることもできないって』
...。
あたしの少し刃物を当てた傷がうずいた。
作品名:バツイチの娘。~アイデンティティモラトリアム~ 作家名:山本 かの子(偽名)