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充溢 第一部 第二十話

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第20話・2/9


 ネリッサから、丘の老人の息子が亡くなったと言う話を聞いた。ポーシャとアントーニオとで出かけたレストランのオーナーである。
 また来て欲しいと言う願いに応えられぬままでいたので、ショックは一入だ。
 人は言うだろう。そんなに稀な話ではないと。強盗が入った話や、親の子殺し、子の親殺しの類は、街を賑わす多くの話題の一つだ。統計的に言えば異常ではないと――一つに反応しなければならないなら、全てに悲しまなければならないとも。
 死を悼むと言うのは、社会的にそう見せているだけだとか、悲しんでいる自分を悲しむ為のものだとか、いくらでも悪く言える事だが、自分が生きていたことを忘れて欲しいと言う人も少なかろう。その為に人を想うのだ。

 シザーリオは、フェルディナンドと一緒に捜査する事になった。彼らは、訓練ばかりで暇だと言う事はなく、こんな事もさせられるらしい。
 料理の皿に突っ伏している姿が発見された。喉に食べ物を詰まらせたようだ。
 肥っていたのが根本的な原因だろうと話していた。

 豚料理が散乱していたので、彼の体型にかこつけて、それを笑い話にする人もいるらしい。世間は残酷だ。関係の無い人間の死は、噂話、日々のどうでもいい暇つぶしの為に消費されるばかりだ。
 アントーニオも同じ部類か、次の出港に向けて色々忙しいはずなのに、用もなく工房に訪れると、その話を持ち出した。
 失望を投げかけると、彼の心も少なからず揺らいでいる、と言う様子を見せた。あの日の失礼な振る舞いを回想しては、恥じ入る。
「一寸先は闇だなってってな」
 アントーニオが珍しく、真面目腐った顔をするので何事かと身構えたら、月並みな言葉。
 驚いた。加えて腹が立った。何か、問題を矮小化させているようで。そして、そんな下らない言葉の為に、わざわざ顔を出す事すら信じられない。
 誰もが考えそうな感想を、何遍も繰り返すことに意味があるのだろうか。うわべだけの"哀悼の意"なんて、むしろ言わない方がいいのではないか。
 激しく噛みつくと、返答に窮したのか押し黙った。手厳しいお仕置きでも受けたかのように目を見開いていた。
「大体、こっちの気持ちはどうしてくれるんですか」
 そう続けると、男は黙って寄り添ってくれた。こんな時ばかり……
作品名:充溢 第一部 第二十話 作家名: