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ゴーストライター
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百戦錬磨 第三話

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「・・・おい、おい・・・冗談だろ?」
和斗は路地を走りながら路地全体に響くような地鳴りと轟音、さらには濛々とあがる黒煙が視界に捉える。明らかに楽観視できる状況ではない。
「・・・ったく、やっぱ面倒なことになってそうだな」
そうやって愚痴をこぼしながらも足を止めることなく少女の元へ向かう。
その黒煙が上がっている現場へ向かおうとするたびに鼓動が高まる。高揚感とでも言うのか。これから自分たちが予想していることよりも、もっと物事を複雑にする何かが起こり始めている、そんな予感が和斗の鼓動を速くする。
それは喜びなのか、それとも、興味なのか、あるいはもっと別のものなのか、それは和斗にしか、いや、和斗にすらわからないかもしれない。
その時の和斗の表情には万人が万人避けてしまいそうなうすら寒い、不敵な笑みが浮かんでいた。
そんな時に和斗はふと重要なことに気が付く。
(・・・地鳴りの続きがない?)
続きがない、ということはつまり、決着がついた、ということなのだろうか。それとも他に何らかの事情があって攻撃を中止しているだけなのか。
(どちらにせよ、現場にいかなきゃ、意味がねーか)
和斗は戦闘学課の授業で身につけた持ち前の体力で一気に路地を駆け抜ける。そして、次の路地を曲がった瞬間に足を止めた。いや、止めざるを得ない状況がそこにあった。
「・・・おう・・・面倒事の前に、面倒なことが起こってるぜ」
路地全体に転がっている死体の数々。地面には血の海が、壁には飛散した血痕が周囲全体にまんべんなく広がっている凄惨な光景が待ち構えていたのだ。
まず間違いなく常人であったのなら吐き気を催してもおかしくない状況。血で赤く染まっていない場所を探す方が難しい。
さらに死体の中には腕がないものや首がないもの、胴体が真っ二つに切断されているものなど様々である。
しかも、それだけでなく連日の春とは思えないほどの暑さによる腐敗臭もかなりのものであるはずなのに和斗は吐くこともなく、常人とは思えないほど冷静に死体に近づいて死因を調べ始める。
これも戦闘学課の授業の成果なのだろうか。
臆することなく死体に近づき地面に転がっている死体を手で触れないように靴で上手に転がして傷口が見えやすいように死体の体勢を変える。
「・・・随分、綺麗に斬られてるな・・・」
転がっている死体の断面を見ながら和斗はさらに詳しく検討していく。死体は骨も綺麗に斬られていた。
「・・・・・刀・・・か?」
多くの死体を検証して和斗はそう当たりをつけた。おそらくこれは刀で実行されたのだろうと。だが、それが本当に刀で実行されたとのだとすれば、断面はかなり綺麗で鮮やかだ。まさに達人級ともいえるだろう。
これほどの腕を持っている人間が一体どれほど世界にいるだろうか。人間を斬るなんていうのはそう簡単にできることではない。
骨などは特に斬るのが難しい。だが、この死体を見る限り、あまりにも綺麗に斬れているのだ。
(もしこれをやった人間が少女を追っていたのなら・・・)
「・・・急いだほうがいいな」
和斗は血で真っ赤に染まった地面を戸惑うことなく駆けていく。
死体があったのはその路地だけで、その路地を通り過ぎれば後は普通の路地だけ。特に和斗が足を止める理由はなかった。
だが、最後の路地を曲がった瞬間に、和斗は再び足を止めることになる。
「・・・」
そこには戦闘があったことを証明する明らかな痕跡が残っているからだ。植物が炎に包まれ、木々にも多くの炎が燻っている。辺りは黒く焦げ付いており、その戦闘の凄まじさが手に取るようにわかる。
その中に先ほど和斗の目の前に現れた二人とさらにその奥に白い髪の少女が倒れていることが確認できた。
「間に合わなかったか!?」
和斗は近くに倒れている二人を放って白い髪の少女の元へ駆け寄り、体をゆっくりと抱き起こす。少女はしっかりと息をしており、ところどころ擦り傷があるもののそれ以外に目立った外傷はなく、生きていた。
「・・・なんだ・・・無事だったのか・・・ふぅ・・」
思わず安堵の息を吐く和斗。そうやって初めて安心した和斗は先ほどとは違った広い視野で周囲をもう一度見渡す。
未だに燻っている炎の影響と元から高い気温が相まってかなり暑いため、炎の向こう側は視界が歪んでしまっている。目を凝らして歪んでいる場所を眺めていて和斗は初めてこの状況でおかしなことに気が付いた。
(・・・植物?)
ここはコンクリートばかりで植物が生えているということはない。植物も生えていないのに木々が生えているということもありえない。
何よりコンクリートが捲れあがって、そこから木々が生えているという事実はつまり、何らかの影響で出現した、と考える方のが妥当。それは和斗にとって簡単にたどり着くことのできる答えだった。
(・・・異能・・・か?)
こんなことが可能なのは異能かあるいは魔術しかありえない。だが、魔術ではないことは言うまでもないだろう。
なにせ、ここは日本。世界的にも有名な異能者が統治している国なのだ。もちろん、異能者だけが日本にいるというわけではなく、少数だが他の派閥も点在しているが、大多数は異能者たちである。いわゆる異能派国家だ。そんな国に敵性勢力である魔術師が入ってくるというのは自殺行為にも等しい。いや、まずこの国に入ってくること自体が困難だと言える。
一体、誰が敵性勢力である異能者が大多数を占めている国に侵入し、そして、これほどの事件を起こすのか。どう考えても辻褄が合わない。
だから、和斗が異能へとたどり着くのはそれほど難しいことではない。
(だが、植物の異能?そんな異能を持っている人間なんて・・・)
異能と言っても多種多様な異能が存在し、その一族のみ発現する異能もあれば、その人間のみにしか発現しない異能や血筋や才能といったものをまったく考慮しない誰にでも発現する異能も存在する。
そして、さらに言うのなら、戦闘にはまったくと言ってもいいほど役に立たない異能も存在したりもする。おそらく、全体的に見れば戦闘に向かない異能は七割を占めているだろう。
だから、実際に戦闘を行うのは残りの三割。その中でも植物を操作する異能。それは、ある一族の人間のみが発現する異能として世界中でかなり有名なものである。
(・・・嘘だろ?)
和斗は視線を倒れている二人へと向ける。おそらくそのどちらかが植物を操作する異能を行使することのできる人間なのだろう。
(最悪だ・・・まさか、こんなところで・・・)
和斗は違っていてほしい、と淡い期待を持ちながら恐る恐る、そして、慎重に近づく。
倒れている二人の付近は他の場所と比べるとより多く、より大きい植物の残骸が残っている。
その残骸の中心地点と思われるような場所でぐったりとしている二人。和斗の視界にその二人の姿が入った時、和斗は思わず言葉を漏らす。
「―――な・・にっ?」
和斗が驚いたのは女性ではなく、ブロンドヘアーの少女を見つけた時だった。日本でも異能による影響で天然のブロンドヘアーの人だけでなく青や赤、緑など様々な髪の色や瞳の色をしている人も珍しくないはず。だが、それでも和斗の視線は少女にくぎ付けだった。
「まさか・・・あいつの?」