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ゴーストライター
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百戦錬磨 第三話

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今までは少女と男の戦闘を静観していた女性が今、この瞬間に動き始め、男の魔法陣が展開されるのとほぼ同時に女性は自分の力を発動させる。
女性の場合、自らの力の発動に詠唱は必要ない。なぜなら女性は魔術師ではなく異能者だからである。
戦闘における異能者の利点は詠唱を必要とせず、瞬時にその力を行使できるところにある。
女性の意思に反応するように地面や周囲のビルの壁面から巨大な植物やその植物の根っこが出現し自分たちを出現した根っこや木々で覆い隠す。
先ほどまで無骨で何もない路地だったが、今では太古の密林と変わらないほどに植物や木の根が周囲を覆う。
まさに木を隠すのなら森の中。森をそのまま移動させてきたような光景だ。
ものの数秒で女性たちの姿は多くの巨大な木々と巨大な植物の根っこによって遮られ捉えることはできなくなった。
これでは少女たちに魔術を当てることはおろか、出現した植物によって魔術自体を防がれてしまうだろう。だが、それは所詮、並みの魔術師だった場合の話である。
故に並ではない男に――――――そんなことは関係なかった。
例え、目視で捉えようと捉えなかろうと男はただ眼前の敵を焼き払うのみ。姿を隠そうが一本道である以上、男の魔術から逃げる術はない。
男の眼前に炎が集束し終え、その炎は球の形を維持しつつ男の眼前に浮き、主の命令を待つ。
そして、主である男が命令とも捉えることが出来る詠唱を言い終える。
「――――粉砕せよ」
詠唱の完了と同時に炎球はその形状を一気に槍へと変化し、そして、無情にも路地に出現した森に向かって放たれる。
炎の槍に触れるものは容赦なく燃え尽きる。それが例え、女性の異能の力によって生み出された植物や根っこのであっても、例外はない。
純粋に鑑みても女性の異能よりも男の魔術の方が破壊力が高いからだ。いや、そもそも女性は攻撃するために使った異能ではなく、護るため、逃げるために使った異能であって、それに破壊力は一切、持たない。いわば完全な防御。故に一方的に攻撃・破壊されることもやむ終えないだろう。
炎の槍は周囲の木々を焼き払いながら突き進む。その速度は一向に落ちることはなく、そして、森の中心部分と思われるところで、炎の槍は爆散した。爆発の影響で周囲の木々は燃え、爆風で根っこは千切れ跳ぶ。
路地全体が震えるほどの轟音が鳴り響く。爆発の際に生じる爆風は男たちのいるところも例外なく襲い掛かる。
「・・・きゃっ!」
男にとってはどうとでもないことでも、男の後ろに怯える様に隠れていた少女にとっては暴風さながら。
見るからに華奢な女の子に耐えられるはずがない。少女はその爆風に煽られ、背中から壁に激突し、意識を失ってしまった。
だが、男はそれを気にした様子はない。いや、ただ単に気付いていないだけなのだろうか。
パチ、パチ、と木の爆ぜる音が周辺一帯から聞こえてくる。炎の槍こそ爆散して消えてしまったが、炎自体は未だに木々に縋り付くように燃えている。
その中に、確かに、女性と少女がいた。が、倒れている。
もしかすればすでに死んでいるかもしれないが、生きているかもしれない。
森の中心部で爆発したとはいっても、多くの木々が邪魔をしてそれほど威力が反映されていない可能性も十分に考えられる。
「・・・・」
男は二人が気絶しているふりをしている可能性を考慮して慎重に燃え盛る路地を進んで行く。その道中、男の歩く道にはまったくといっていいほど炎がない。まるで男を避けているのではないかと錯覚してしまうほどに。
そして、男は二人の傍に立つ。形としては完全に男が見下すような位置だ。
そこではっきりと、二人の胸が上下しているのを男は確認した。そして、それを確認すると同時に二人の気絶していることもしっかりと確認する。
「・・・生きていたか」
そう呟いて、男はしばらく何もせず、ただじっとその場に立ち、二人を眺めていた。何をするでもなくじっと二人を見つめる。
二人の着ている服にはあちこちに焦げ跡が残っており、穴も開いている。
それだけではなく、爆風の影響で地面を激しく転がったのか、体の至る所に擦り傷や切り傷が出来ていた。だが、あれほど大規模の爆発でこの程度の怪我なら十分、先ほどの異能で作られた森は役目を果たしたと言えるに値する成果だ。男が二人を眺めていた時、この場には合わない電子音が周囲に鳴り響く。
男は外套の中にしまっていた携帯を取り出し、電話に応じる。
「・・・あぁ、言われたことは遂行した。お前の言った通りだった。さすがは四位だ」
男は確かに安堵の息を吐く。それは本当に安心しているような表情だった。
「あいつは相変わらずか?あぁ・・なるほど、あいつらしい。あぁ・・離脱すればいいんだな。顔を見られずに・・・だが、すでに・・・了解した」
男はそれだけ言って通話を終了する。携帯を外套の中に仕舞い、落下した仮面を拾い上げてフードを被り、二人の傍を通り抜ける。
最後に一度、男は倒れている二人へ振り返り、そして、そのままその場を去って行った。