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ゴーストライター
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百戦錬磨 第三話

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もしも和斗がAクラスにいるのならきっと何も考えず、大っぴらに力を見せびらかして相手を圧倒していたことだろう。
だが、和斗の葛藤はそこではない。和斗は確信していたのだ。
あの少女が、きっと、何かが起こる前触れなのではないかと―――。
いわば和斗の本当の意味での葛藤は今までの日常を送るか、それとも今までの日常ではない非日常を選択するのか―――――。
(もしこれがアニメや小説なら、きっと選択の余地なく巻き込まれるんだろうけどな・・・)
まず間違いなくそちらの方が楽でいい。いわゆる勝手に巻き込まれていた、と言う方が。自分で決めるよりも流される方が楽だから。
だが、和斗にはそれがない。だが、それの代わりに選択肢があった。自分で選ぶ権利。流される方が楽でいい――――それは当然だ。
だが、どっちが幸せかで言うのなら、どちらなのだろうか。
流される方なのか、それとも選べる方なのか。
日常を選ぶのか、それとも非日常を選ぶのか。
和斗はそれを未だに選ぶことが出来ず、ただ路地で一人、佇む。
(どうする?こんなところで・・・)
色々な葛藤をし、悩むこと数分。和斗は一つ、大きなため息をついた。
「・・・アホか俺は?こんな面白そうなこと放っておくわけにはいかないよな、やっぱり」
結局、和斗の思考はそこへとたどり着いたのだった。和斗は何かを成し遂げようとする最中であっても、その途中にある面白そうなことには首を突っ込むのが和斗なのだ。
大抵、和斗が興味本位で厄介なことに首を突っ込みと、状況を引っ掻き回して、事態をさらに深刻化させて、あげくには、それを放置して逃げるということになってしまう。
和斗の行動理念の根底には必ず『面白そう』という厄介な感情があるのだ。
もちろん、そんな感情を抜きにした純粋に目的も遂行する時もある。が、それは稀といっても過言ではない。
まさに、厄介ものだ。
(何かが起こっているのに蚊帳の外は面白くないな、やっぱり)
幸か不幸か。今の和斗にとって、それは愚問でしかない。なぜなから、和斗が冷笑を浮かべていたのだから。 
「そこまでね」
女性は一人、ずっと路地を走って逃げ回っていた少女をついに追いつめてそう言った。
少女は肩を上下させながらつらそうに呼吸をしている。おそらくかなりの速度でかなりの距離を走ったのだろう。
身長の低い小学生ぐらいの少女と二十歳代の女性の体力ではその差は歴然。少女の背中には大きな壁。つまり、行き止まりだ。近くには逃げ込めるような路地があるにはあるが、少女の場所からではたどり着く前に女性に捕まるのが落ちだろう。
故に逃げ場はない。
「・・・はぁ・・・・はぁ・・・」
それでも少女の眼光は未だに諦めているものではなかった。だが、状況はすでに詰んでいる。少女にこの状況を打開する方法がなければ、の話だが。
「もうこれ以上の鬼ごっこは時間の無駄よ。あなただってそれを理解しているはずよ、雪菜」
女性の言葉を聞いても少女は逃げることを諦めきれないのか、女性たちに背を向けて壁をよじ登ろうとまでする。
「まったく・・・無駄に粘っちゃって・・・」
女性は「はぁ~」と深いため息を一つつく。すると女性の前に身長の低いフードの人物がゆっくりと歩み出る。
「あら?どうしたの?」
「・・・時間の無駄」
フードの人物はそれだけ言うと着ている外套の中から拳銃、グロッグ26を引き抜き、銃口を少女へ向ける。装弾数十発のそこらのゴロツキ連中が所持しているような鈍らものではなく、軍隊などでも正式採用されているものである。
「っ・・・」
だが、少女はその銃口を見て尚、抵抗する意思を見せる。それは意地なのか、それとも他に何らかの思いがあるのか。それは少女にしか知りえない。
フードの人物が引き金を引こうと指先に力を込めたとき、思わぬところから救いが来た。
「ちょっ、何やってるのよ!」
予想外に少女とフードの人物の間に割り込んで来たのは女性だった。
「・・・何の真似?」
フードの人物もさすがにこのような状況なるとは思っていなかったのか少し銃口がぶれる。
「雪菜は私たちの所有物よ。あなた達が勝手に手を出してもいいものではないわ!」
「・・・それで?」
「これ以上は国際問題に発展するわよ」
女性の瞳に嘘はなかった。そして、その言葉が現実に起こりうることをフードの人物は理解していた。そのため、フードの人物は構えていた銃口を下げる。
「・・・・回収するなら早くして」
納得したような口ぶりではなかったがフードの人物はそのまま後ろへ下がる。女性はかるく安堵の息を吐き、少女へ向き直る。そこで女性は驚愕した。
「―――――なっ!」
いつの間にか少女はかなり女性に近づいていた。だが、それ自体に驚いたわけでは無論、ない。
女性が驚いた理由、それは―――――――。

「――――――――」

そこに外套を纏い、能面の仮面を付けた謎の人物が立っていたからだ。
「―――だ、誰?」
女性が狼狽しながら言葉を繋ぐ。なぜなら、ありえないことだから。袋小路になっているここは唯一の出入り口を彼女たちが押さえている。後は少女の後ろの壁しかない。そこに忽然と現れる背の高い仮面の人物。
疑問は一つ。いったいどこから現れたのか―――――。
そして、答えは一つ。普通じゃないからだ。女性の後ろ、背の低いフードの人物もさすがにこれには驚いた様相を垣間見せる。
「――――――」
仮面の人物は何かを話すわけでもなく、ただ純然とその場に立ち、少女を庇うようにしている。
「―――誰かは知らないけど、邪魔したら・・・死ぬわよ?」
「―――――」
女性の言葉に対しても何も行動しようとしない仮面の人物。
「――――そう・・・だったら、死んでも後悔しないことね」
女性も仮面の人物と戦う気なのか、その人物を睨む瞳に力が籠る。それはやはりただの異能者ではなく、いくつもの戦場や修羅場を潜り抜けてきた本物の強者の顔。一見してただ立っているだけのように見える女性の姿にはまったくといっていいほど隙がなかった。
それに対抗するように仮面の人物は静かな殺気を身に纏う。それは仰々しい殺気ではなく、とてつもなく静かで冷たい殺気だった。
(―――――これはマズい)
数多の戦場と修羅場を駆け抜け生き延びてきた女性は本能的に仮面の人物の実力を察知する。南米の戦場では一個小隊規模の特殊部隊を一夜にして全滅させたという経歴の持ち主が、である。
女性の体が勝手に仮面の人物から距離を取る。そして、いつの間にか、後ろにいた背の低いフードの人物と同じぐらいの位置まで後退していた。
「――――参戦しても?」
背の低いフードの人物は下がってきた女性に対して短くそう尋ねる。今までフードの人物の存在を忘れていたのか女性には幾分かの余裕が生まれたかのように笑みを浮かべる。
「・・・えぇ。あいつを殺しても、我々は黙認するわ。あいつは・・・不運な事故にあった・・・そうなるだけ・・」
そうして女性は不敵な笑みを浮かべる。先ほどまでの怯えた姿はもうない。そこには狩猟者として獲物を狩る女性が立っていた。
そして、背の低いフードの人物がフードを脱ぎ、素顔を晒す。