作品集
正午を約1時間半過ぎた駅には人がまばらで、仕方なく家路を急ぐ。
寄り道のように路肩の花を撮っていると影が差して、振り返ったところに彼女はいた。画面と被写体の花を交互に見比べ、僕の目をじっと見つめて口を開く。
「写真家ですか?」
興味津々のようで、その声は少し弾んでいた。しかし僕は写真家なんかじゃない。
「いえ、只のしがない大学生です」
「へぇ…」
「えぇ」
妙な沈黙が二人の間を行進していく。そこに彼女の好奇心が割って入って、僕を掻き乱していく。
「何処の大学ですか?」
僕は此処からは近いとは言い難い大学の名前を告げる。すると彼女はまた「へぇ…」と言い、僕はまた「えぇ」と言った。
これが彼女との一枚目の思い出だった。低い雲を背景にした、ありきたりな有り得ない出会いのワンシーン。