百戦錬磨 第一話
もちろんAクラスの方が優秀で、Gクラスが普通よりも劣っているということだ。
Aクラスは持って生まれた異能が強力で、尚且つ、体力や各特異な技能、学問が学生の域を超えている者たちのみが所属できるクラスであり、Gクラスはほとんど戦闘において役に立たない異能を持ち、まら、学問や体力などが一般生徒たちよりも劣っている者たちが所属するクラスである。
そのため、Aクラスの者たちは実際の戦場に立ち、戦うことも実際に何度かある。それほどまでにAクラスというのは凄まじい生徒たちということだ。なので、他の学課の生徒たちからは時折「Aクラスは化け物クラスでGクラスは普通以下の役立たずクラス」と呼ばれる時もある。
和斗と夏樹の二人は皇育の戦闘学課Gクラスに所属していた。
「おぉ・・なんかそれっぽくなってるな~」
和斗は学園の校門に立てかけられた“入学式”と書かれている看板を見てまるで子供のようにテンションが上がっている。
「そりゃそうでしょうが、まったく・・・それで、どうやって遅れてきた理由を説明する気?」
さすがにこの時間帯だ。何らかの理由がない限り教師も許してくれることはないだろう。
「そうだな・・・互いに朝帰りです!っとか言ったら許し・・・ぐはっ」
和斗が最後まで言葉を続ける前に夏樹の拳が煌めく。
「あんまり冗談言ってると、殴るわよ」
「殴ってるだろ!殴る前に言えよ!」
「まったく・・・」
夏樹とそして和斗が殴られた頬をさすりながら桜吹雪で彩られた並木道をゆっくりと歩いていく。
その桜吹雪の中、明日の準備のためせっせと動く女子生徒の青を基調にしたセーラー服が見事に調和しており、見慣れている光景であるはずなのに、ついつい、和斗はその光景に魅入ってしまう。
「・・・何、鼻の下伸ばしてるのよ」
「伸ばしてないぞ!うん!全然だ!」
「まったく、こんなにかわいい幼馴染が傍にいるのに」
少し頬を赤らめ恥ずかしながら呟く夏樹の姿は客観的に見ても確実に可愛かった。にもかかわらず、和斗は平然として答える。
「はっ。お前のどこに魅力を感じろっていうんだよ」
プチッという何かが弾けるような音が聞こえたが、運悪く喋っていた和斗にその危険な音が聞こえなかったらしい。
おかげで、夏樹に不穏なオーラが渦巻いていることに気が付いていない。
「だいたい、お前は昔っから、色気ってやつが・・・」
「か~ず~と~(笑)」
夏樹の声で和斗が話しながら夏樹の方へと振り向く。
「足りな・・・うぉっ!」
不穏なオーラを漂わせつつ笑顔でぬらりくらりとゆっくり近づいてくるその姿は一種の幽霊、いや、悪霊を連想させるには十分すぎる姿をした夏樹が和斗へと迫っていた。
「死んじゃおっか(笑)」
「はははは・・・その笑顔が可愛いぞ・・・がふっ」
情け容赦一切なしのマジパンチが和斗の顔面にめり込み、ゴキッっという鈍い嫌な音を出す。
「のおおおおぉぉぉぉぉーーーー」
顔面を両手で押さえつつ地面でのたうち回る絵はあまりにもシュールである。何事かと周囲でテキパキと動いていた生徒たちが動きを止めて和斗と夏樹に注目する。が、それも一瞬、「なんだ、また和斗か」と呟きそのまま何事もなかったかのように再び動き始めた。
「まったく、最後のは褒め言葉になってないわよ」
夏樹が腕を組み、頬を膨らませていると人ごみの中で夏樹と同じ色のラインが入ったセーラー服を着ている少女が一人と和斗と同じ色のラインが入ったブレザーを着ている青年一人の二人が和斗たちの元へ歩いてくる。
「まったく、騒がしいと思ったらまた和斗か」
そう言って歩いてくるのは和斗と同じ百七十後半の身長を持っている幼馴染、高橋孝明だ。
孝明は和斗が地面で悶えている光景を呆れ顔で眺めていた。
「そうなのよ。ほんとにいつになったら学習するのかしら」
夏樹が言いながら深いため息をつく。
「まぁ、和斗だし仕方ないんじゃない?」
そうやって孝明と一緒に歩いてやってきた青く長い腰まである髪でところどころ髪がぴょんとはねている独特な髪形をしている幼馴染の少女、一ノ瀬水月が言った。
ちなみに学園生の大半は黒髪なのだが、時々、水月のように何らかの異能の影響で髪の色が変わったり、瞳の色が変わったりという体質を持つ生徒たちがいるので学園側はそれに対して特に罰則というものを設けておらず、そういった体質は社会全体で認められているので特に問題になったりしない。なので、それを利用して髪を染めている生徒たちもたまにいたりする。
「のおおおぉぉぉぉ・・・・おっ!・・・うむ・・・」
今の今まで顔面を覆って地面を転がっていた和斗が突如、何かを見つけたのか叫ぶことを止めて一点に視線を集中させる。
今まであれほどうるさかった和斗が急に黙ったことに気付いた水月が和斗の様子を見ようと視線を下に向けた。そこで和斗の視線が自分の方へ向いていることに気が付く。
「あれ、和斗、どうし・・・」
水月は和斗の視線を辿っていくと、自分のスカートだった。そして、水月の位置は上、和斗の位置は下。つまるところ、和斗はスカートではなく、スカートの中を見ていたのである。それを理解した瞬間、水月は自分の顔が熱を持っていることに気が付いた。
「か、かかかず―――――――」
「なぁ、水月。黒はちょっと背伸びしすぎじゃないか?」
顔を赤らめて狼狽している水月に対して冷静に水月の下着を評価する和斗。その冷静に分析している和斗の顔面に水月の足がめり込む。
「ぐあぁぁぁぁぁ!鼻が、目があぁぁぁぁぁ!」
再び顔面を両手で覆いながら地面で悶絶する和斗。ごろごろとのた打ち回るその図はわずか十秒ほどで二度目である。
ここまで来ればもはや慣れていると言うべきなのか、夏樹と孝明は和斗など眼中にないと言わんばかりに無視してさっさと校舎の中へと入っていく。
「まったく・・・和斗は・・・」
顔を赤らめながら水月もスカートを翻して校舎の中へ。
桜舞い散る中に一人、ポツンと残される和斗。その姿には憐憫を誘うものがある。さすがに放っておけなくなった入学式を準備している他の生徒たちが和斗に近づいてくる。
しかし、それを遮るかのように声が響いた。
「―――朝からうるさいな」
よく響く澄んだ声は皇育にいる者たちなら全員が知っている人の者だった。
流れる様な黒く腰のあたりまである長い髪を靡かせ、颯爽と現れる少女、いや、少女というにはあまりにも大人びたその表情。端整な顔に青く澄んだ瞳。そして、黒髪に白いリボンが二本巻き付いている。その少女はあまりに綺麗すぎて現実離れてしていた。
「せ、生徒会長・・・」
和斗の傍にいた一人の生徒がそう呟く。
生徒会長、大居結菜の進む道にはすべての生徒たちが道を開ける。しかし、その中で唯一、道を開けない馬鹿が一人。言うまでもなく、和斗である。
和斗はちょうど立ち上がって鼻を押さえているところだった。
「いっつう・・・」
「大丈夫か?」
優しいとは言い難い声につられて和斗は視線をあげる。そこにはちょうど結菜が自分のスカートのポケットからハンカチを取り出し、和斗に差し出しているところだった。
「ほら、使え」
差し出された無地の白いハンカチ。そのハンカチが彼女の性格をよく表していた。
「え・・あ、さんきゅー」